[コメント] 英国式庭園殺人事件(1982/英)
屋敷の主人ハーバート氏の妻−ジャネット・サズマンと、娘のタルマン夫人−アン・ルイーズ・ランバートの計略の一端。すなわち、画家(というか製図者と云った方がいいのだろう)ネヴィル−アンソニー・ヒギンズと、ハーバート夫人との契約が交わされる。契約内容は、主人が不在の12日間で12枚の絵を仕上げることと夫人からの快楽の提供。私は原題の意味が早々に開示されたと思ったが、それは早とちりだったということが徐々に分かる。ちなみに、この夜会のシーンでネヴィル一人だけが白塗りの化粧をしていないので、彼の異分子感が際立つ。
依頼された12枚の絵は、ハーバートの土地建物(邦題にある「庭園」はその一部)のデッサンで、ネヴィルは、四角い木枠(内側を糸でマス目状に分割した器具、デスケル、デッサンスケールというらしい)を使って、鉛筆で描く。このデスケルという器具越しの画面も多数出て来るので、本作自体の精緻な構図への志向が強調される効果がある。あるいは、単純にフレーム内フレームという画面がとても楽しく感じられる。例えば、羊の群れが画面奥から手前にやって来るのをデスケル内に見せるショット。ネヴィルがタルマン夫人と新たな契約を結ぶ話をする際の(そう、契約は冒頭でバーバート夫人と結ばれるだけではなかった)タルマン夫人のデスケル内ショット。また、全編に亘って固定ショットを基調とするが、いくつかの(数回しか出てこないが)左右への横移動ショットが目に留 まる。例えば、庭でディナーをとる人たちを、ワンカット内で左右に往復する横移動で見せるショットなど。
そして、この庭でのディナーの場面でロングショットに切り替わった後、後景の屋根上に、裸の男が登場する。やっぱり、この男の扱いが本作の一番のチャームポイントだろう。裸の男はブロンズ像か。別のシーンでは壁にへばりついており、タルマン氏の甥(小さな男の子)にふざけて手を振ったりするし、小便小僧のようになったり、庭師からあっちへ行け!と追い払われたり。これはもうモンティパイソンの世界だと感じるが、あゝ英国映画らしいとナンセンスさだと思わせられる部分だ。
というわけで、家屋や庭園といった装置、当時の貴族文化を再現した(のだろう)美術やコスチュームはもちろん見どころで、これだけでも実に豊かだと感じられる作品だと思うが、撮影と人物造型に関しても今見てもとても面白く見ることのできるよく出来た作品だ。終盤、タルマン夫妻がベッドルームで口論する場面のディレクションも実に見応えがある。尚、ハーバート夫人−ジャネット・サズマンには、何度も濡れ場が用意されているが、ヌードは無しかと思っていると、ラスト近くに左胸が露わになるショットがあるということは書いておこう。
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