[コメント] ランド・オブ・プレンティ(2004/米=独)
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9.11後のアメリカをしっかり見つめた作品である。ドキュメンタリー作品も手がけるヴェンダースだけに、視点に鋭さがある。アメリカでのスラム街の貧困問題、アラブ人をすべてテロリストだと決めつけてしまう一方的な判断を植えつけた9.11以後のアメリカ政府の政策、イラク戦争、パレスチナ問題、そしてベトナム戦争の痛みを、映画の中に入れ込み、きちんと人間ドラマを語っていた。ある場所、国について語ること、それは実は人間を語ることでもあると感じた。現在の情勢が、人々の生活に深く関係している。だからこそ、少女とその叔父という人間の物語としても、感動のある物語になったのだ。
歴史を反映させなければ、この物語は生まれなかっただろう。この映画に描かれていたアメリカにはリアリティがあった。マイケル・ムーアの『華氏911』やこの映画のような作品は、やはり作られていく意味はあると感じた。
また、映画を観ながら、9.11と自分の関係を考え、それによってこの映画に感じる部分も多くなった。
9.11の惨劇が起こったとき、僕は家でニュースを見ていた。高層ビルを好きな友人が「テレビをつけたら、ツインタワーがあるべき方角にないから、何が起きたのかと驚いた」という話をしていたのを覚えている。その1年後、僕は9.11を留学中のボストンで向かえた。アメリカ全体が特別な一日と位置づけていたを身近に感じたが、僕自身は朝から頭痛がして部屋に閉じこもっていた。その1ヵ月後、ニューヨークで事件が起こった現場を訪れたのだが、そのときは黙り込んでしまった。上を見るとそこには青空が広がっていた。以前はそこに超高層ビルがあったはずなのに、鮮やかな青空以外には何もなかった。そこで感じた空虚が、大惨事の重みを表していた。
『ランド・オブ・プレンティ』のラストシーンを観たとき、僕は自分の経験を思い出し、この映画から静かな感動を得た。
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