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[コメント] ヴェニスの商人(2004/米=伊=ルクセンブルク=英)

世に最も知られたストーリーの一つを、ほぼ忠実に映画化しながら、なんと異なった衝撃を与えるものへとしたものだ。意欲的な野心作であるとともに、シャイロックを演じたアル・パチーノも新境地を開いたと言って良いのではないか。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







シャイロック以外は、みな幸せに満ち足りたハッピーエンドになったにもかかわらず、ユダヤの礼拝所に入ることもできず、一人路上でたたずむシャイロックの姿で映画は終わり、実に後味の悪いものとなっている。この点では、ユダヤ人の悲哀を身体中から醸し出したアル・パチーノの演技も新鮮であった。

よってたかって社会の少数派であるユダヤ人をいじめ、ついにはキリスト教へと改宗させてしまう。シェイクスピアの時代ならそれでハッピィーエンドなのだろうが、その内容をこうも生々しく突きつけられてしまうと、単にキリスト教徒によるユダヤ人への圧迫にしか見えないのだから、たいしたものだ。

それに何より、いかにもシェイクピア風なんだけども、事柄の発端−借金苦にあえぐ貧乏貴族がなんとか莫大な遺産を相続した金持ちの娘に取り入ろうと、無理に借金して飾り立てたということが、妙にさめた視線で描かれ、それがいっそう、ユダヤ人はあそこまで人非人のごとく言われなければならなかったのかと、思わずにはいられない。

むしろ思う様にわがままに、この世を謳歌しているキリスト教徒の横暴に対する、抵抗者ではないのかと、シャイロックの肩を持ちたくなる映画だった。

そういうシビアな視点を感じさせると同時に、映画としても、中世ヨーロッパの実に華やかな世界を、美しい映像でまとめており、映像美としても優れたものがあっただけに、よけいに、ユダヤ人への理不尽な扱いが際立ったように感じられた。

(評価:★5)

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