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[コメント] 親切なクムジャさん(2005/韓国)

悪魔であるからこその「優しさ(親切)」と、天使であるが故の「残酷(愛からの憎悪)」という両極を具有する復讐者が体現する世界観。人のためならぬ「情け」で作り上げたその「ケーキ」は、甘いのか、苦いのか。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







英題が復讐三部作第一作"Sympathy for Mr.Vengeance"と近似する"Sympathy for Mrs.Vengeance"。正統な続編と言える。特に本作では「悪魔のやさしさ」「天使の残酷」が女性の情念というツールを通して深められている。

白・黒・赤という色彩で映画をデコレーションすることを徹底したチャヌク演出は安易といえば安易だが、寓話作家としてのチャヌクのスタンスを明確に示すものであり、的確と言わざるを得ない。

白・黒・赤が侵食しあう中で形成されるクムジャの造形は、そのままビジュアルに顕れている(白い肌、黒のコート、口紅)。黒いコートの襟で表情を隠すことで黒の専有面積を増してみせるあたりなどは何とも微に入り細に入り丁寧で嬉しくなる。

ラストシーンで振る舞われるケーキは黒。平らげた復讐者達が店を出て行くシーンに、彼らの「怪物化」を見る。この描写の淡泊さがいい。

引き離された娘との言語的な隔絶なども切なさをあおる。ごくごく単純に、チェ・ミンシクの刺客を返り討ちにする雪道のショットなど、各所の描写に観る喜びを感じる。

ただ、大きな不満がある。「親切」を施す対象者がそれぞれ特殊能力の持ち主であるらしいため、彼らのチーム戦によってチェ・ミンシクを追い詰めるカタルシス描写にもう少し彫り込みが欲しかった。カタルシスを観るものに感じさせるか感じさせないか、ぎりぎりの線でつま先立ちすることが本作では肝要だったと思う。これではやはり「そのケーキは苦い」と早期から観るものに予感させてしまう。たいへんに惜しいと思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)おーい粗茶[*]

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