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[コメント] 花嫁人形(1919/独)

もう面白い造型テンコ盛りの作品。書割りセット、手作りガジェットといったルールの中から生まれたアイデアがこれでもかと盛り込まれ、映画を作る楽しさが溢れ出るように伝わって来る。
ゑぎ

 開巻はルビッチ登場。画面左の箱から右にジオラマというかミニチュアの風景を作る。斜面の上の家とか木とか。右側が大写しになり、ミニチュア画面と思っていると、家のドアから男女が出て来て、道をすべり、小さな池にはまる、という実写転換で始まる。もうこゝからエンディングまで怒涛のような展開だ。

 タイトルロールの人形はオッシ・オスヴァルダ。しかし、プロット上の主人公はオジさんのバロンから結婚を強いられた女嫌いのランスロット−ヘルマン・ティーミッヒで、逃げ込んだ僧院の僧から人形を花嫁にすればいいと入れ知恵されて、人形師−ヴィクトル・ヤンソンから人形を買う。しかし実はそれは人形師の娘オッシだったという展開

 序盤は屋内シーンが多いのだが、ランスロットが女性たち(40人という)から逃げ回る追いかけシーンになって、全編、書割りみたいなセットの中で演じられるのだと分からせる、この構成も驚きがある。次に唐突にナイフとフォークで大きな海老を食べる僧侶が繋がれ、アイリスインで両隣にブラザーがいることを示す。このようにアイリスなどを使ったマスキング画面が活用される部分も目を引く。この後、バロンの邸内で壺を取り合う男女の手のアップを四角く切り取ったショットだとか、沢山の(12個の)口唇のアップを一つの画面で丸枠の中に見せる演出だとかが顕著だろう。

 セット・美術で特筆すべきは、人形師の売り場というか接客スペースになっている広い部屋の不思議な遠近感だ。こゝでもランスロットは沢山の女性の人形に囲まれてしまうが、画面奥から女性たちが出現して手前に来るロングショットなんてゾクゾクするような奇矯な造型だと思う。ちなみに、人形師の場面では、その弟子の少年と人形師の妻もなかなか良いキャラだ。少年が人形師から度々ビンタされる演出や、少年が失望して塗料を飲む(これで自殺しようとする)反復がギャグになる。あるいは、娘のオッシと、父の人形師及び少年との切り返しだとか、キッチンの窓から少年が飛び降りる際に人形師の夫人と視線を交錯させる切り返しといったキャッチする繋ぎがある。

 人形のフリをするオッシ、それを誰もが本物の人形だと思っている状況というのは男のフリをした『男になれば』の変奏という側面もあるが、当然ながら度々人形らしからぬ所作をする部分があり、そのギャップは男装よりも数倍楽しいシーンを作る。例えば、咳やくしゃみ。それへのランスロットらの反応は切り返しっぽく繋がれる。あるいは、唐突に喋ったり、殴ったり、キスしたりといった場面には、こんなに精巧に作られているとは!というレスポンスだ。その極めつけは、終盤の僧院で、僧たちと踊るオッシのシーンだろう。

 また、特技(特撮)場面も沢山ある。人形師が、売った人形は娘だったと気づいた際の、髪が総立ちになり白髪に変わる造型。彼がショックで夢遊病者になり家の屋根を歩くショット。やはりこの人形師が、沢山の風船につかまって空を飛ぶシーン。他にも、二重露光で画面右に寝台のバロン、画面左上に責める人々を見せるショットだとか、ランスロットの夢を表現した、ベッドで眠る彼の右上の窓に、オッシが座っている二重露光なんかも良い造型だと思う。

 いやこれらにも増して、手作りのファンタジー、イラストの太陽や月、馬車の馬は人間の着ぐるみ(尻尾が外れていて、御者がつける!)だったりする造型が楽しい。こういう部分では、ランスロットが初めて人形師の店に入る前に、ハート型の段ボールみたいなものがズボンの裾から落ち、それを胸元に戻して、意を決した感情を表現する場面が忘れがたい。なんて可愛らしい演出だろう。

(評価:★4)

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