[コメント] 夏の嵐(1954/伊)
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1866年の普墺戦争を舞台にした監督4作目の作品で初のカラー作品。
ヴィスコンティ監督の作品は年代によってその作り方にいくつかの系統に分かれるが、初期の作品が描写的に一番くどく、しかも容赦ない描写に溢れており、実は私は初期の作品が一番好きだ。監督第1作である『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1942)もそうだが、ねっとりした映像美のみならず、その中の人間の感情の振れ幅がとにかく大きい。特に女性の側は、男を信じ切って、身も心も委ねきっているのに、男の方は束縛されるのを嫌う。結果として女性の方が裏切られることになるのだが、そうなると女性の情の強さが恐ろしいほどに迫ってくることになる…
実は私はヴィスコンティ監督特有のねっとりした描写は苦手であり、前半部分はなんかげんなりした気分で観ていたのだが、後半にいたり、ヴァリの凄まじさが出てくると、画面にかぶりつくように観てしまった。ここでのヴァリの表情は本当に「凄まじい」という他無い。特にラストに至る表情の変遷はもの凄い。馬車の中できっと口を真一文字に結んで、何者も恐れず、男のいる場所に向かう意志の強さ。そして男のいるドアを開ける時の、解放された表情。男のよそよそしい態度に徐々に顔が強ばる過程。そして裏切られた時の呆然とした表情。そして最後に密告する時の石のような硬い表情…この変遷の過程には本当に圧倒された。
ヴァリの表情の凄さは『第三の男』(1949)がトップかと思っていたけど、それ以上のものがここにはあった。ほんと、それだけでも充分だよ。
…話はベタベタで演出も行きすぎ。ちょっとくどすぎて腹もたれするような作品でもあるんだが(笑)、こんなとんでもない演出見せられただけで、もう一気に評価が上がってしまったよ。
ちなみにアメリカで公開されたときは『The Wanton Countess』(ふしだらな伯爵夫人)の題名がついたとか…妙にはまってる気もする。
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