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[コメント] 悪太郎(1963/日)

一見、普通に良く出来た瑞々しい青春映画に見せかけているが、もう清順らしさが開花した、全く普通じゃない完全に狂った映画だ。
ゑぎ

 本作同年には『探偵事務所23』『野獣の青春』そして『関東無宿』があるのだ。なんという充実した常識外れの作品ラインナップだろう。そして本作をさらにバージョンアップしたものが、3年後の『けんかえれじい』と云っていいのではないだろうか。

 清順らしい普通じゃない演出として誰もが諒解できる(最も目につきやすい)場面は、何と云っても、山内賢が同級生の【杉山元に話す、彼のロストバージンの回想シーケンスだろう。相手は芸者ぽん太−久里千春。こゝは見る人によっては演劇的と感じるようだが、いや全然違うと思う。何が凄いって、まるで瞬間移動したかのような人物の繋ぎを連続する演出だ。それはゴダールのジャンプカットとも違う。例えば、部屋で会話していたかと思うと、次のカットでは橋の上に立っていたりするのだ。

 実は、こういうのを、全編に亘って周到にさりげなく挿しこんでいる。例えば冒頭近く、山内が、ヒロイン−和泉雅子とその友人−田代みどりを初めて見る場面。舞台である豊岡の町のロングショットを繋いで、抒情的な文芸作みたいな雰気を醸成しながらも、やっぱり山内の視線とその先の和泉ら(日傘をした後ろ姿)のカッティングは違和感がある。瞬間移動したみたいな繋ぎだ。他にも、和泉に横恋慕する上級生のタコ−野呂圭介と決斗する河原の場面でも、山内がドスを抜いて腰を抜かした野呂の見せ方は、全く予期せぬカットの連続で、矢張り、微妙に(普通には)繋がっていない、といったことが指摘できる。

 あるいは、京都のシーケンスが、私は全編でも最も良い部分だと思うのだが、山内と和泉が2人、座卓に肘をついて、一言科白を云う度にキスをする、というとても可愛らしいシーンの次に、ちょっと普通じゃない演出を見せる。南禅寺らしき法堂脇を、2人が行ったり来たり、歩きながら会話する場面の演出で、固定の超ロングショットと横移動のフルショット(いずれも仰角構図)を何度も反復する。これはある意味、堂々とした演出なので、奇矯な演出と思わない観客も多いかも知れないが、私はやっぱり普通じゃない演出をやっていると云いたくなる。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・冒頭しか出ない山内の母親は高峰三枝子。高峰が山内を託したのが、豊岡の中学校校長−芦田伸介

・和泉の父親は校医の佐野浅夫。田代の家は旅館。女将さん(母親)は東恵美子

・山内や杉山の担任の教師は久松洪介。用務員で青木富夫。本屋の主人は長弘

・山内の下宿のオバさん(未亡人)は小園蓉子。淡路島の婆やで紅沢葉子

・東京の場面の洋食屋のコックは柳瀬志郎。道の向こうに凌雲閣が見える美術。

(評価:★4)

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