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[コメント] ある子供(2005/ベルギー=仏)

物と人への思いを優しい視線で描いた作品。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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彼女の部屋を貸す。引っ手繰った物を売る。トレードマークかと思っていた帽子も売れば、子供も売ってしまった。中盤までは、ブリュノの物への執着心の無さと、息子を物同然に売買してしまう様子が描かれていた。ソニアにした弁解にもならない弁解「また生めばいい」は、本心ではないだろう。むしろ、その言葉の裏には、「又生めば金になる」といった打算もあったかもしれない。 ブリュノが息子を物のように売ってしまったのは、ブリュノが母親を尋ねるシーンがあったように、ブリュノ自身、家族愛に恵まれなかったことが想像できる。

一方、ソニアはそれまでのブリュノの生業を黙認していながら、この行いだけは全力で拒否反応を示した。しかし、その彼女にしても、あのブローカーがそうしたようにブリュノが他人の子供の売買を斡旋したケースだったら、知らぬが仏で黙認していたかもしれない。つまり、ブリュノとソニアの違いは善悪感ではなく、息子を愛していたかどうか?に限定されると言える。

本作では誰も根っからの善人は登場していない。だから、決して悪い人を断罪する作品ではないだろう。かと言って、本作の作者の優しい視線は、それでも一生懸命生きるブリュノを描いていたか?と言うと、決してそう言う優しさでも無かったと思う。 ソニアは「子供が出来たんだから定職について」と言うが、ブリュノはまじめに働く人のことを「あんな屑みたいな連中とは出来ない」と応えた。 ブリュノは一生懸命生きることを放棄していたんだと思う。しかし、楽して生きるのはもっと大変なんだ。そんな作者の優しさを感じさせる演出が続く。

話は飛んで終盤。彼女に捨てられ、ごろつきに追い立てられ、自分を信じて着いて来てくれたスティーブは捕まってしまった。そんな状況で私は、ブリュノ一体お前はどうするんだよー! と「親心」を持って鑑賞していた。そう、我々は作者の意図した親の視線でブリュノを見守っていることに気が付くのだ。そして、赤ん坊にではなくブリュノの中に本作の「ある子供」という主題が見えてくる。

そんな私にとって、そのブリュノがスティーブのスクーターを引きずる姿は気が気でなかった。この描写からは、ベビーカーと同じように売ってしまうのでは?と思わせると同時に、ブリュノを信じたい気持ちも捨てられなかった。また、この辺りから、物(一例としてスクーター)の描き方が丹念になってきたのも一つのポイントだろう。本作は子供だけがテーマではなく、物を大事にすることもテーマにしていたように思う。

スクーターを返し、自首することでスティーブとの最低限の約束を一通り果たしたブリュノ。そう、ブリュノは一つ成長したんだ。この一歩は大きい。 正直私の好みではここまで(の成長の描写)で十分だと思った。 その後のソニアが面会に来て、ブリュノがコーヒーを飲むところで泣き出すシーンは、結構ありがちなエンディングだし、それが無くても想像で何とでも膨らみそうなものなので・・・。 とは言え、ソニアのブリュノに対する母性がまざまざと感じられるものだったし、本作は、人としての「成長」よりも「家族愛」に重きを置いた作品だったのでしょうね。

(評価:★4)

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