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[コメント] 赤ひげ(1965/日)

黒澤映画では、もっともヒューマン色が強い娯楽映画の一つ。一人きりでなく、家族や友人と一緒に見たい。ただしそれゆえ黒澤の悪い面もよく分かる作品。
ちわわ

これほど、家族と見たいと思った作品も少ない。 それはこの作品が「絆」をテーマにしているからに他ならないであろう。

風鈴の演出など演出面での優れたところも枚挙限りない。 なかでも、井戸に向かって叫ぶ演出はすばらしかった。比較しては まずいが、『リング』での井戸の使われ方なんかこれと比べると ギャグかもしれない。。

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井戸が冥界につながる、ということは例えば小野篁の伝説などを 思い起こさせる。 平安時代、小野篁は昼間は宮廷に勤め、夜は冥府通いをしたといわれる。 京都、六波羅密寺の近くにある六道珍皇寺にはそのとき冥府への入り口にした井戸がある。 お盆の頃にはこの寺に人々は死者を出迎えるために京都の人は今も集まる。 実は嵯峨の方にあった寺(福生寺)に、彼が冥府から戻るのに用いた井戸があったらしい。 この寺はつぶれてしまった。寂れた井戸だけ残っているとか・・・

昔のひとは、今以上に、あの世とこの世の境目をいろいろな場所に発見していた に違いない。この映画で少年が語る西方浄土のイメージなんかもそういった意味で 心にのこった。

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しかし例えば佐八、おなかのエピソードなんかはまったく納得がいかない。

幸せすぎるから怖くなって不幸を選ぶ。

この理屈がよくわからない。

こういった面まで賞賛しはじめると、単に黒澤信者になるだけで、 それがいいとはまったく思わない。

黒澤の登場人物はどこかドストエフスキーに似ていると誰かが 言っていたけど、確かにそれはあたっているかもしれない。一人の人間は ある人間の型を象徴して表現されている。そんな象徴的人間があつまって 一つのドラマが作り出される。その優れた面も問題面も同時に視野に入れないと いけない。赤ひげ先生の心の診断のように、明確な心の診断は果たして 可能なのか否か。

(評価:★4)

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