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[コメント] エリ・エリ・レマ・サバクタニ(2005/日)

音楽がなぜ人を救えるのかというWHY?の部分が納得するほどの答えが見えてこなかった。描こうとしているテーマに対して撮りきれていない、説明しきれていない感が漂う。期待していただけに残念だった。
ゆうき

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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■尊敬する映画監督の一人、青山真治の作品。西暦2015年。世界中で正体不明のウィルスが蔓延していた。「レミング病」と呼ばれるそのウィルスは視覚映像によって感染し確実に死に至るというものであった。そんな中、病気の進行を抑制するといわれる唯一の方法が発見される。それは、2人の男、ミズイ(浅野忠信)とアスハラ(中原昌也)が演奏する“音”を聴くこと。やがてその噂を耳にした老富豪(筒井康隆)が彼らのもとを訪ねてくる。息子夫婦をレミング病で失い、たったひとりの跡取りとなった孫娘ハナ(宮崎あおい)までもが病に侵されているという。愛する孫娘の“死”を止めるため、彼らに演奏を懇願する老富豪。

■ストーリーはこのように<音楽>によって<救われる>という岩井俊二監督の「リリィシュシュのすべて」のテーマに極めて近いものを感じた。テーマ設定や映像、音楽は素晴らしいものであったが、青山真治だからこそ、すごく大きな期待をしていただけに「そこで終わっちゃうの?それが言いたかったの?」という感はあった。レミング病という自らの意思とは関係なく自殺によって死んでしまうという病にそれほどの違和感は覚えない。これは今の日本を見ていてもそう遠い病ではない気がするからだ。<何もない、苦しい中での自殺>ではなく<なんでもあるこの生ぬるい社会の中での自殺>というものが<何によって>救われるのかというところに青山監督が着眼した時点でどのような監督なりの答えが見えてくるのだろうかという期待が大きかった。

■俺の理解力がこの映画についていっていないということもあるかもしれないが、俺の見た限りでは「それは音楽によって救われるのだ」といったような答えにうつった。もしくは音楽はメタファーであり、表現や芸術など見る者が心動かされるものによって、その病みは救われるのだということがこの映画の答えのような気がした。それはそれで良いけど、でも本当にそれで病みは救われるのだろうかという疑問が大きく残った。その「なぜ救われるか?」というWHY?の部分を納得させるだけのものが見えてこなかった。

■岩井監督の「リリィ〜」は思春期の少年たちが音楽によってかろうじて社会という枠に踏みとどまり生きる力を見出すというところを描いた点で非常に優れていると思ったが、今回の青山監督はそれとはまたぜんぜん違う意味で音楽によっての救いを描いている。テーマは似ていてもその意味がぜんぜん違うように映った。音楽は動機付けではあるが、それ自体が人の命を救うようには思えない。そしてそれ自体が人の命を救うということに希望を託したというこの映画の肝の部分に自分は共感できなかった。青山監督の過去の作品「EUREKA」は答えが見えぬ絶望の闇の中に微かに見える希望で幕を閉じた。「EUREKA」は日本の映画史に残る作品だと思う。しかし今回の「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」から見えた希望はそれに比べ稚拙なものに思えてしまった。

(評価:★2)

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