[コメント] 県庁の星(2005/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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特に終盤、保健所の査察官の前で消防法を暗唱させられるシーンなど、必要以上に引っ張りすぎて、却って緊張感が緩みそうになる。議会で野村(織田裕二)が予算削減案を提出するシーンも、やけにじりじりと時間をかけていて、くどい。その割には、そのシーンで野村に理解を示していた知事(酒井和歌子)が、結局は「私は‘前向きに検討します’と言ったんですよ」と、削減案を葬ってしまうシーンでは、その急な掌返しの理由が腑に落ちない。議長(石坂浩二)が何らかの圧力を彼女にかけたのだろうと推測はできるが、単に彼がそのシーンで知事室にいて、削減案をゴミ箱に捨てるのも彼だという、何とも雑な演出。これでは、議会で議長を黙らせてまで野村の話に耳を傾けた知事の行動は何だったのかと思える。シーンやカットの要不要が計算できていない。
「前向きに検討します」が実は、検討するだけで実際には何もしませんという意味であることは、序盤で野村自身が後輩に語っていたことなのだが、その後輩が今度は自分の後輩にその台詞を繰り返してみせたシーンの後での、この知事の台詞。「前向きに検討します」という台詞が、杓子定規で情に欠けた過去の野村自身の亡霊のように、野村の前に立ちふさがるシーンで終わる、という発展的円環構造。かつての野村の立身出世主義と、議長の利権体質とは或る程度のアナロジーがある。自らの知見を自身ありげに語る石坂浩二のタレント的キャラクターをダークサイドに傾けて、独特の厭らしさを醸し出す演技が小憎らしくてよい。またこの厭らしさが、野村の潔癖なスクエアさとは全く異なる対照性を示してもいる。反面、知事の扱いが、権力の内なる「善」を示す記号でしかないせいで、「前向きに検討します」による言葉遊びのような演出で終わってしまっている。
本作がやたらと多用する「溜め」の演出が確実に利いているのは、終盤で野村が二宮(柴咲コウ)をデートに誘うシーンくらいか。
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