コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] うつせみ(2004/韓国=日)

それまでの隔世的テーマから変わって、前作『サマリア』では「実社会」の性の問題を描き、本作は身近な「実生活」に踏み込んできた。面白いし、キム・ギドクっぽい演出なんだけど、『春夏秋冬、そして春』を過ぎた頃から私が期待するのとずれはじめている。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作で主演の2人が言葉をほとんど発しないのは『悪い男』と『魚と寝る女』でお馴染みな演出ですね。こうなると何処で口を開くがポイントとなるわけですが、彼は取調べ中に一言答えた以外(この時の映像は取調室の外を写していたので映画としての台詞はなし、と言うキム・ギドクらしい演出)は話すことはなく、ヒロインはラストで旦那の気を惹くため=彼と同居するため、に口を開きました。

このようなこの監督らしい演出はあるものの、私的にはキム・ギドク監督の尖がった演出が弱まって、丸くなって来たとの印象を受け、物足りない。実社会の性の問題を描いた前作『サマリア』でも監督の作風の変化から来る違和感と若干の説教臭さを感じたけれど、それでも監督特有のイメージカットはあったし、痛みや不安の余韻を残すシーンがあったのでよかった。

本作は洗濯や日用品、雑貨の修理など、文字通り実生活に「踏み込んできた」。「痛み」のアイテムとしてのゴルフスイングやゴルフボールは日常的な危険なので、今までのようなインパクトは無い(似たようなことをアルマゲドンでブルース・ウィリスがやってますよ)。影法師は面白いけれど、ギドク映画にそういった面白さは求めていないんすよね。

あと最もキム・ギドク監督を特徴付ける、海、湖、川などの自然水の幻想的描写が無いのも本作がはじめて。浴槽に浸かった写真集を観るシーンがあったけれど、これも実生活的でちょっとちがう。

キム監督は本作について、日本女性のヨン様ファンにも受け入れられるのではないか?とインタビューで答えたらしいので、丸い映画を意図して創っているのは間違いないんだろうが、私的にはこれっきりにしてほしい。次作の『』は期待できそうかな。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)セント[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。