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[コメント] 初恋(2006/日)

宮崎あおいの「眼」がすべてを物語る作品。かつての若者たちの臭いが作品を貫いている。
マーヴィン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







村上龍が、現代は「絶望」の時代だと言っていた。

この物語にあるような、政治を変えようとする倣岸さや右も左もわからず暴力に走る衝動は、もはや絶望に姿を変え、漫然とただそこに漂っている。

人が集まるパワーと、人と人とが衝突する時のエネルギー。そして、それらを見つめ、それらがいつか消えてなくなってしまうという恐怖と諦めの入り混じった視線。 宮崎あおいの視線は、まさに火中に身を置きつつ、それらを淡々と見つめる視線であった。

この作品は、全共闘の時代を懐古しているわけでなく、再評価しているわけでもない。現代に生きる視点で淡々と描いたものだ。現代に生きる人々の多くは漫然とした不満を抱えて生きている。食うには困らない。自由はいつも側にある。けれども、醜悪な現実がいくつも眼前に提示される。知りたくなくとも無理矢理に呑まされる。このままでいいのか・・・まあいい。ほんとうに?・・・よくない。でも何ができる?・・・? そうして現実感は薄れていく。

宮崎あおいの視線は、ただ一人現代にあった。彼女の視線を通じて、僕らは作品を見たのだ。彼女の存在なくしてこの作品は成立しない。そして彼女は、そんな役回りを十二分に全うしていた。贔屓の引き倒しという感もなきにしもあらずだが、彼女は現代最高の女優だと強く思う。

作風として、ややドキュメンタリータッチに振ったのは自分としては気に入らない。特にラストで一人ひとりテロップをつけるのはやめてほしい。

(評価:★4)

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