[コメント] 彼岸花(1958/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
佐分利信のような紳士な人物を主人公に据えたことで、この映画が爆発的に面白く仕上がっていますね。大変楽しく拝見しました。
今ちょうど、日経新聞に有馬稲子さんが「私の履歴書」を連載されています。
知りうる限り、小津安二郎監督の作品に有馬稲子さんが出演されている作品は『東京暮色』とこの作品のようですが、いずれも元来明るい映画を作る小津安二郎監督としては、やや暗い印象の作品ですね。
本作はそれでも、まだ比較的明るい作品ではありますが、有馬稲子さんの役柄は、好きな男性と結婚するのを父親に反対される役ですね。
それにしてもまあ、この作品の佐分利信が演じる父親役ほど矛盾している父親はありませんね。
自分の娘以外の若い女性には結婚しろだの、好きな人と一緒になれだのいいかげんなことを言っておきながら、いざ自分の娘(有馬稲子)のこととなると許さない。そんないいかげんなお話はありませんが、結構当時の男性のありかたとしては、こういう人物が多かったような気がします。
そんな中注目するのは、表面的には紳士ぶっていながら、内面自分の娘を話したくない矛盾した父親に付き添う謙虚な母親(田中絹代さん)の存在ですね。
この母親は、自分なりのポリシーを持っていながら、いざこの家の主人と口論になると最後は「もういいです」といって議論を打ち切ります。そんな妥協が家の秩序を保っているのかもしれませんね。
矛盾と妥協。
これこそ日本の家族制度を維持してきた暗黙知のような世界なのかもしれません。
大阪の親戚にあたる浪花千栄子と山本富士子の母娘の演技も見事ですね。
もともと東京の情景を描写する小津安二郎監督にとって、関西弁は別世界なんですね。でもこの作品の母娘と、この作品の数年後に制作する『浮草』の闊達な関西弁には強烈な印象が残りますね。
いずれも芸の極地のような言葉の応酬。
そんな中、無骨な父親の姿が印象的な作品でしたね。
2010/04/06 自宅
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