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[コメント] 瀧の白糸(1933/日)

映画を観る喜びを教えてくれた映画。 特に活弁、ひいてはサイレント映画の素晴らしさも教えてくれた映画。
田原木

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最初の馬車のシーン。一部で過大評価されているように思うが、確かに素晴らしいシーンだ。

橋の上での再会のシーン。滝の白糸が紹介される際によく挙げられる幻想的なシーンだが、『河内山宗俊』にも似たようなシーンがあり、個人的にはそちらの方が好みだ。

では私は滝の白糸のどこを素晴らしいと考えているのか。

まず、団員に金をせびられたりしながら欣弥への送金のため苦労する滝の白糸のいじらしさは手放しで素晴らしい。特に若い二人のためにお金を出してやり船で遠くへ逃がすシーンが素晴らしい。それは若い二人のためだけではなく、自らの恋愛が成就するための願掛けでもあるのだ。

また、警察の手を逃れて欣弥の部屋で彼への想いに浸るシーンも涙を誘う。ボロボロの姿で追われている状況下での至福の一時。しかしそれはまさに一時に過ぎないことは滝の白糸のみならず観客もしっているのだ。入江たか子の演技が素晴らしい。

検察官となった欣弥との再会のシーンでは今までこらえていた涙が零れ落ちそうになった。欣弥にやっとあえた嬉しさと今の自分は強盗殺人の被告人であって昔の滝の白糸ではないという恥ずかしさが入り混じった入江たか子の絶妙な演技はここでも素晴らしい。

順番は逆になったが、滝の白糸が岩淵の家で乱暴を受けるシーンも壮絶だ。 話によると検閲のため当初予定していたカットは省かれたようだが、あの滝の白糸が畳の上で引き擦り回されるのを天井から見つめているカメラには溝口健二特有の残酷性が遺憾なく発揮されているように思った。

以上、滝の白糸の素晴らしさを語ってみたが、思い出すのは淀川長治氏の評価である。 彼は「滝の白糸は大したことは無く、日本橋や唐人お吉、さらには狂恋の女師匠の方が素晴らしい」と何度も公言していた。私はこの評価を聞くたびに失われた豊かな溝口映画への想いを強くしていったのだが、その後どこかでフィルムが発見されることもなく、未だに観ることはできていない。非常に残念なことだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)寒山拾得[*]

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