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[コメント] ブレイブストーリー(2006/日)

どんなに技術が進んでも、RPG世界はプレイヤーたる子供たちの都合のいい論理でクリアし得る世界であり、いやしくも保護者たる大人がそれを現実より優先させる愚は避けねばなるまいと自分は考える。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最初のキャラクターに対する第一印象が趣味にあわなかったので、この時点で観るのをやめようかとも思ったのだが、知人が誉めるので考えを変えて一見。まずはここからしか始まるまい。「ヴィジョン」のまるのまま西洋中世趣味も、RPGといえば、という先入観からの子供たちへの刷り込みと思えば、と目をつむることにする。

しかし、目をつむっていられない場面はあちこちに散見できる。「ヴィジョン」というのは、入り込んだ者たちの適性が試されるただそれだけの世界ではないのか。そこに波乱万丈の冒険が待つ以上多種多様なキャラクターが登場するのは認めるが、彼らに人権が認められるような描写があるのは当惑させられる。ワタルがその世界の魔族を一掃することを女神に懇願するのは勝手だが、小学生にしてのこの「いい子ちゃんぶり」はどうにも納得がいきかねた。現実に彼の父親は決して帰ってこない心積もりなのだし、母親はガスを吸ってあるいは廃人になることすら考えられる。そして、彼とは違う同い年のミツルは一家心中で死んだ妹を懸命に甦らせようとして敗北し、自分は「間違っていた」との言葉を残して絶命する。なんとも生臭いファンタジーだが、それだからといって望みが全部叶えられないのは最初からの鉄則である。しかし、ワタルは「ヴィジョン」の存続を願った。その結果ワタルは母親を介護しながら小学生を続け、現実世界への甘さを知りつつも頑張るかといえばそうはならない。母は何事もなかったかのようにワタルとの暮らしを続け、あろうことかミツルは妹とともに甦って転校生として登校してくる。原作がどれくらい生かされているのか判らないが、自分はこれで宮部みゆきに大いに失望してしまった。

子供に逆境にめげず前向きに生きることを教えたいなら、その冒険は日常生活の中でこそ展開させられるべきではないのか。自分たち大人は子供たちの驚くべき適応能力にただ驚嘆し、目を見張っていていいものではない。むしろ親たちの身勝手さにこそ警鐘を鳴らすべきで、子供たちに「いつ起こるかも判らないアクシデントのために自分で生きてゆく用意をしろ」などと口が裂けても言ってはならない。いくらそれが現代社会において珍しいことでなくなっても。

最後に、ゲーム音痴の自分はここで描かれたRPG的世界観に口をはさむ権利はないけれど、それを現代社会と重ね合わせる愚行は避けるべきだと考えている。それは真面目に子供のことを考える者の責務だ。

宮部みゆきの原作がこの作品より深い考察を為しているのなら、お詫びいたします。

(評価:★1)

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