冒頭の散らかった部屋や、車のフロントガラスにこびり付いた汚れ、芽が出ているタマネギなど。これらの細かいカットが妙にリアルで、とくに猛がシャワーを浴びている最中に突然智恵子のことを思い出し、苦しむシーンには感心してしまった。役者といい監督といい、間の取り方が本当に上手い。裁判が始まってからはそのテンポが途切れ途切れになるのが惜しいような気もするが、そのたどたどしさも不安感を煽るようだとさえ思えてくる。

あと気になったのは、映像の質というか雰囲気。森林が綺麗なのは勿論、なんでもないような日常の一コマが妙に美しく見えた。それは例えばきちんと正座して洗濯物をたたむ兄ちゃんの後ろ姿だったり、あわただしく何故か新聞紙まで干している年老いた父の姿だったり。

個人的には、こういう「真実はひとつだけどひとつじゃない（観る人の捉えかた次第）」といった映画はあまり好きなほうではないけども、ラスト間際では一緒に「兄ちゃーん！」と叫びたくなった。