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[コメント] 硫黄島からの手紙(2006/米)

50年代の本邦戦争映画のノリがあり、21世紀のウヨった邦画よりずっと真っ当だが、本作自体がアメリカ帰りの主演ふたりによる現行日米同盟深化のための儀式のようにも見える。通念と違う、玉砕したがる海軍と否定する陸軍という対立が目を引く。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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士官クラスの布陣、改革派栗林陸軍中将渡辺謙に対するは、ギョロメ剥くいかにも悪役の保守的な海軍少将阪上伸正と海軍大尉中村獅童。渡辺の味方は西部劇のように馬乗り回す陸軍中佐伊原剛志。ということで陸軍対海軍が示される裏主題があるように見えるのだがどうなのだろう。「いさぎよく戦って散るべきです」と云う阪上に渡辺は内地への転任辞令渡して、大本営に支援部隊の進言を依頼。腹立てて阪上は去り、抗戦中に断りの電文が入る。戦闘機は本土に戻せと大本営から命令も来ている。

渡辺は戦車じゃなく馬乗り回していた時代が懐かしいと回顧する、イーストウッドらしい西部劇風。マリアナでの壊滅を始めて聞かされた渡辺は「大本営は国民だけでなく我らも欺く積りなのか」伊藤「最も賢明な措置はこの島を海に沈めてしまうことかと」と最初から負け戦を確認する。陸軍一等兵二宮和也も冒頭から「こんな島、アメ公にやっちまえばいいんだよ」と海岸の塹壕掘りしながら放言し、「どっちみち全員死ぬんだ」と休憩時間にわめいている。

渡辺は「十人の敵を倒すまで死ぬことは禁ずる。生きて再び祖国の土を踏めることなきものと覚悟せよ。天皇陛下万歳」と訓示して戦闘開始。直後に二宮のぐったりした顔が強調される。以降はどんどんやって来る米兵と壕でおたおたする日本兵が延々描かれ、終盤は野原を突撃するがCGは安い。陣地を突破され、合流しろと指示する渡辺、それでも天皇陛下万歳で自決する兵、合流を主張してどっちが陛下の御為になると語る二宮。合流に向け敵陣突破で来世で会おうと掛け声(靖国で会おうとは云わせていない)。終盤、子供が栗林を讃える有名な合唱がラジオから流れ、最後は安んじて国に殉ずるべしと渡辺が笑ってバンザイ突撃。結局は玉砕するのだったが立場上仕方ないんだなと思わされる。エピローグは兵たちの発送できなかった手紙の発掘。

親米が大いに強調される。渡辺はアメリカに住んだことがあるとの情報が序盤に出回り、アメリカ製の銃を腰に下げている。海岸線防衛を主張する海軍幹部に対して渡辺は、アメリカの自動車生産台数を知っているか、米軍事力を侮るな、海岸はすぐ突破されるから放棄して山に洞窟掘って地下に潜って徹底抗戦せよろ作戦変更。ここは沖縄戦を想起させる。中村獅童ら陸軍は、渡辺は腰抜けでアメリカの腰巾着と、命令無視して擂鉢山奪還命令、伊原剛志と対立する件があるがこれも史実なんだろうか。

伊藤は米捕虜に馬術でロス五輪に出たよと写真みせて握手し、死んじゃった捕虜の持っていた早く戻って来てねという母の手紙を訳して兵たちに読み上げる。残った二宮らは、鬼畜米英という言葉を鵜呑みにしていた、俺たちと同じ文面だったと話し合って投降を語る(投降者を見張りをサボるため米兵が射殺する展開で、米絶対正義の視点が回避されているのは見識だが、『父親たちの星条旗』の友情物語とは齟齬を来している)。

渡辺はアメリカ時代の晩餐会で、日米が戦ったらどうすると問われ、日米は素晴らしい同盟国になる、戦うべきではない、しかしそうなったら勤めを果たすと答えて、真の軍人の言葉だと讃えられている。本作の云いたいことはこの辺りなのだろう。対立を越えた融和は美しいのだが、現行の日米同盟のために不幸な過去を清算しようという主題がふつふつと感じられる。

二宮への召集令状持ってきた大日本婦人会に抵抗する妻裕木奈江とか、飼犬射殺命令を誤魔化して憲兵隊辞めさせられた加瀬亮とかのタッチは昔の本邦戦時映画と通底する。本作の脚本家は戦後米国へ移住した父母を持つ日系アメリカ人2世らしく、本作以外の活躍はネットでは見つけられなかった。硫黄島の民家は映るが民間人の描写がないのは詰まらない。ぽろぽろピアノにロングトーンラッパの劇伴は安いがこんなものなんだろう。再見。

(評価:★3)

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