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[コメント] 鉄コン筋クリート(2006/日)

分かってしまった…それがとても悔しい。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作は一言で「素晴らしい作品」と言えるし、普通だったらそれで良いのだが、実は観終わってからしばらくの間、もやもやした気持ちが抑えられなかった。

 それでしばらく考えている内、このもやもやした感情は“悔しさ”なんじゃないか?と気が付いた。

 そう思ってしまったら、確かに悔しい。むっちゃくちゃ悔しい。

 本作は本当に画期的ないくつもの要素を持っているのだが、そのことごとくが、本当に悔しい思いにさせられる。

 多分裏切り者扱いされるだろうが、はっきり言って今の押井守が当初志向していた(と私が思っていた)要素がここには溢れている。人間の欲望渦巻く、しかも下町情緒溢れる町で蠢く人間達の姿を縦横無尽にカメラを移動させ、微に入り細にいたり街の様子を描いていき、その中で人間の精神に分け入っていく。言わば町が主役の作品であり、その中で実験的な技法を駆使して…ああ、そうか。私が押井に求めていたのはこれだったんだ!確かにその志向性は過去の押井作品にはあったのだが、『攻殻機動隊』(1995)以来、それが単なるファッションになってしまったとしか思えなくなってしまった。押井マニアとして考えてはいけなかったこと。それを考えようとしてなかったのに、他人の作品でそれが分かったのが無茶苦茶悔しい。

 二つ目に、本作を監督していたのはアメリカ人だと言うこと。本作はクロとシロだけを中心に考えるのなら、いっぱしのポップアート的な作品として観られるのだが、実はそれだけではない。彼らが動き回っているその足下には骨太な人間ドラマがあるのだから。不感症を自認する若い刑事沢田が徐々に情緒に目覚めていく姿も良いのだが、特にネズミと呼ばれる老やくざの生き方は痺れる。既に時代遅れになった自分のことを自覚し、自分が面倒看ていた木村の前に体を投げ出すその姿。その格好悪さが格好良い!今や日本のアニメーションは世界的にも認められているが、てっきりアメリカ人はANIMEをポップカルチャーの一つの形にしか見なしてないと思ってたし、まさかここまで邦画を研究していたとは思いもしなかった。日本にこの姿を実写で描ける若手がいるか?と考えると、アリアス監督の実力が見えてくるし、日本人ではなくアメリカ人にこれを描かせてしまったのが悔しい。

 そして三つ目。この絵が動いているのを観ている内に、同じスタジオ4℃制作で、自分の中で否定してきた『MIND GAME マインド・ゲーム』(2004)が傑作に思えてきたこと。確かにこれはまるでベクトルは違っているにせよ、あれがあったからこそ、本作が出来たのだと思うと…ちょっとそれも悔しい。

 少なくともアニメに否定的でない、あるいはこれを好きな人だったら絶対に観て欲しい…観るべき作品だ。

(評価:★5)

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