[コメント] ユメ十夜(2006/日)
噴飯物。淡々と、かつ透徹した漱石の筆致から滲む静かでも強い死のにおい、妖気や美しさやおかしみの、再現も脱構築も為し得ていない。「裏切り」のセンスが途方もなく悪い上、ごく単純に、映画として「心」が死んでいる。何がやりたいんだ。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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「真摯な裏切り」「脱構築」をするなら原作を完全に噛み砕いてから凌駕していただきたいが、それを出来たのは松尾スズキくらいのものだろう。山下敦弘も感心しない。日常に闖入する「動かない金魚売り」が醸す異様な不気味さを無視し肩すかしを喰わせるのは単に逃げに思える。他作は自己の作風への都合のよい、いい加減なつじつま合わせに過ぎない。ユメだから解釈は自由、というのが単に甘えに感じられる作りだ。天野喜孝編にはどろりとした黒い海が誘う虚無的な死をカラフルな憧憬に塗り替えた驚きがあったが、本人がその気なのか疑わしい弛緩が感じられた。
原作は各話の最後の一文が衝撃的で、これは映画で素晴らしく巧いカッティングに出会った時の衝撃に似ているのだが、たとえばこの映画の作り手はそういった感受性は持ち合わせていないようである。各話のクロージングを苦笑をもって迎えたが、松尾スズキ編は苦笑をもって迎えることが正にふさわしいように思われ、この点においても分かっているな、と思わされた。
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