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[コメント] ホワイトハンター ブラックハート(1990/米)

自らのドグマに対する懐疑を自己内省のうちにきわめてドキュメンタルな自戒をこめて描いたGOODムービー
junojuna

 イーストウッド映画の大主題である自己完結性の美学をその矛盾の解でもって示した極めて内省的な形而上映画の傑作である。映画という鏡像に自らをここまでドキュメンタルに差し出す行為は、本作以降の内省的な映画作りの出発地点となっており、本作以前のフィクションに投影するという創作行為からの変貌はとてつもなく重要である。原作はジョン・ヒューストンの伝記小説とのことであるが、イーストウッドが想を得たポイントであろう、映画を撮ることの罪、映画監督であることの罪に対してのシンパシーは並々ならぬものであったことが感動的に画面を支配している。そして同時にプロフェッショナルであることの宣言をヒューストンにオマージュを捧げながら高らかに、また、孤高であることの誇りと葛藤を滲ませて、その美学を貫こうとする姿勢は真に筋の通った物言いであった。ここで興味深いのは、これまでの、いやこの後にもそうであるが、絶えず彼の作品の主人公の動機となっていた「過去への執着」という主題が、本作では「現在の煩悶」という新たなる葛藤主題の提示に境地を開いたことにある。ゆえに、この作品はイーストウッドのドキュメンタルな創作活動の現れとして特殊な位置にあり、ひじょうにナイーブなフィルモグラフィとして貴重である。そして、「犠牲」という主題にここまで深化して内面を吐露する表現をみせたのも感慨深い。その点を思えば、一現役作家が自らの作家性ひいては人間性を丸裸にさらけだすという行為は、やはり伝記という形を採らなければなかなかにできるものではないだろうが、それでも勇気ある行為であると賛辞を送りたい。悪魔の心の懺悔として、自らの罪を見つめることのできる者は、よりよく自らを生かすことができるだろう。

(評価:★4)

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