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[コメント] 捨小船(1923/米)

サスペンスな笑いを生みだすシナリオライティングが注目のSO-SOコメディ
junojuna

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 キートンワールドの悪夢的構造がサスペンスな笑いを醸し出す知的な作業の跡がうかがえる作品である。いかにも強者のジョー・ロバーツと小心小兵のキートンの対比。ヘマをして船長ロバーツによって船上から海原へ放り投げられる船員の名が名簿から消されていくという狂気は、船中という閉ざされた空間の中で起る惨劇としてホラー映画を思わせるサスペンスフルな劇空間を生みだして巧い。それを笑いに転換していくといったギャグセンテンスも要注目であるが、この対比関係がこの映画の肝となっていることは大きな成果である。その方向性は劇終盤においても、海上砲撃訓練をしている戦艦の射的板の上で何も知らないキートンが呑気に釣りを楽しんでいるというシーンでも登場する。これを一発で破壊させてしまうのではなく、3番目の的にキートンがいることで、その破壊までの助走を設定するという施しは映画を語る修辞に長けた知的な構築力である。本作で映画偏差値の高さを見せつけたキートンであったが、肝心なパフォーマンスは少々平凡であった。この年の7月、いよいよキートン・プロ初の長編作品『キートンの恋愛三代記』が封切りである。乞うご期待!

(評価:★3)

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