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[コメント] ピンチクリフ・グランプリ(1975/ノルウェー)

みんなに見てほしい!って心から思うんだけど、誰にも見せたくない…とも心から思う。
づん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







キャラクターの造形だけで言えば『チェブラーシカ』のような愛くるしさもないし、ヤン・シュヴァンクマイエル作品のような毒々しさもない。だからと言って可愛くないという訳でもない。その造形は、どちらかと言えばセンスが感じられない部類に入るんだと思います。それなのになんでこんなにドキドキしてほんわかして癒されて目頭が熱くなったのか。もうそれはまさに彼らの中に命を感じたからだと思います。

例えばあまりアヒルに見えないソランの、しっぽをふりふりしている可愛らしさ。しかもふっくらしておらず、ぺっちゃんこ。可愛すぎる。それからどう見てもハリネズミに見えないルドビグのぽこぽこ歩く後ろ姿。可愛すぎる。レオドルじいさんのまつげをパサパサさせる瞬き。可愛すぎる。外に出る時はみんな決まってギュっと結ぶマフラー。そして後世のアニメーションに多大な影響を与えたであろう、数々のオモシロ機械(や二重ドア)。すごすぎる。そしてなんと言っても楽器の演奏シーン!ありえない!音と手の動きがシンクロしきっている!!私はピアノしか演奏出来ないのですが、鍵盤を叩く指が音と全く同じ。もう驚愕通り越して感嘆してしまいました。そういった賞賛に値する数々の動きの愛くるしさはもう画面中に溢れていたんですが、それ以上にレオドルじいさんがアヒルとハリネズミに対して持っている愛情。逆にアヒルとハリネズミがレオドルじいさんに持つ愛情。それらが動きの可愛さ以上に画面に溢れていて、彼らに吹き込まれた命をすごく感じる事が出来たんだと思います。

夜、3人(あえて"3人"と言わせてもらう)でテレビを見ている何気ないシーン。ハリネズミがじいさんの膝に手を置いてテレビを見ている。レオドルじいさんはアヒルの肩に手を回してテレビを見ている。たまにレオドルじいさんの顔を覗き込みながらレーズンをもう一粒とせがむハリネズミ。じいさんを慮りつつも怒ってテレビを消しに行くアヒル。もう全てがかわいすぎる!!!!特になんでもないこのシーンから、このへんてこな3人の関係が良く見えたし、お互いに対する愛情が見て取れました。

それは手に汗握る緊迫したレースシーンでも見られたのが驚きです。アヒルに代わり流れ的に助手席に乗っちゃった感のあるハリネズミ。必死に壊れた装置を抑えているんだけど、どうものんびりした性格のせいか、たまに手を緩めちゃうんですよね。そのたびに「おぅ!」ってビックリして抑え直すハリネズミを、優しい笑顔で見守るレオドルじいさん。どんなCGにも負ける気がしないスピード感溢れるレース中に時折挿入されるそういうシーンが、テンポを悪くするどころか益々テンポを良くしていると思いました(ピンチクリフ村でテレビ観戦しているほんわかシーンも然り)。

そしてラスト。偉業を成し遂げた3人の夜は、昨日と何も変わらない美しく済んだ夜。ただほんのちょっとだけ誇らしい。だからボエーンボエーンて変な楽器を鳴らしてみる。ほんのちょっとだけ友達を見直した。だから今日だけは寝る場所を変わってあげる。ほんのちょっとだけ気分がいい。だからいつもと同じハーモニカを吹く。でも明日は昨日までとおんなじっていう安心感。ツーっと涙が出た。最後の「おやすみ」って言う響きもまたあったかかったなぁ。こんなありきたりな言葉でしか表現出来ないのが悔しいけど、本当に最高の作品でした。

てゆーかピンチクリフ村て…!ネーミングセンスに脱帽です。やかまし村に行くのが私の夢なんですが、ピンチクリフ村に行くのも夢に追加したいくらいです。てかどっちも北欧!本当にファンタスティックな地域だな。

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08.01.28 記

(評価:★5)

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