[コメント] アルゼンチンババア(2007/日)
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よしもとばななの同名小説を映画化。よしもとばなならしいファンタジックな、それでどこかちょっと世間からずれた家族関係が描かれる。原作は未読ながら、なるほど。と思わされる内容に仕上がっていた。著者の作品には独特の暖かさがあるが、それらは“癒し”の過程を丁寧に描いているからであろう。心が傷つけられた人間同士が寄り添っている内に、徐々にお互いに癒しを与えあっていることに気付くという過程が良い。その過程は特に教科書的という訳ではないのだが、人が癒しを与えられるというのも、それこそ人それぞれというやつだから、一律に描く必要はない。本作は未読でも、その辺の心地よさに浸りたくて、時折著者の作品をめくったりもする。
本作の場合は悟の癒しが中心だが、主人公はそれを横で見ている娘のみつこの方で、彼女自身も色々傷つけられながら、どんどんたくましく育っていく、思春期から脱しようとしている青春真っ盛りの状態。二人して現実を受け入れるまでの過程が描かれている。そしてこの二人の仲に突然現れた異物と言って良いアルゼンチンババア。超然としているように見える彼女も又、精神的に成長していく。
この成長というのが面白いところで、人間の成長というのは、“あきらめ”が付きものなのである。結局色々なものが中途半端なまま残るのだが、それらを「昔のことだ」にしてしまうこと。これが実は成長の大きな過程であるといえよう。だから曼荼羅は結局完成しないし、みつこの恋も成就しない。だけど、それらを通して又新しい目標が与えられるし、何よりそれを通して、自分が生きてきた、あるいは生きていると言うことに実感が与えられていく。
そう言う意味では原作をちゃんと咀嚼しているのは確かで心地よさを感じることが出来る。ただ、なんか本作の場合、妙なちぐはぐさを感じさせるところがある。
それはやっぱり演出の失敗と言うことにあるのではなかったかな? 言うまでもないが、アルゼンチンババアを鈴木京香が演じたのはどう見ても違和感の固まり。こう言っちゃ何だけど、もっと色気のない、お母さんタイプの人にやらせて然りだったのでは?勿論彼女の演技力が悪いとは言えないし、彼女なりの良さというのもある。だけど、人から嫌われる人間にはどうにも見えないのはやっぱり致命的なのでは?上手さとは別に合わない役というのがやっぱりあるのだ。
それに全体的に黄色がかった演出はアルゼンチンを意識してのことだったのかも知れないけど、軽めに見えてしまう。それに臭いについても、全てが綺麗すぎて臭さを感じなかったのもちょっと気にかかる。全体的に明るすぎて綺麗すぎたのだな。それがかえってマイナスに働いてしまった。
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