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[コメント] ブラックブック(2006/オランダ=ベルギー=英=独)

長く辛い映画だ。しかし、そこに現実があるのなら、それも映画の役割なのだろうと思わせた。バーホーベンに対する認識を改めることにする。(2008.7.15)
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







良く色々な方が言う言葉で良く聞く言葉、それは「反対側からものを見よ」ということ。

第二次世界大戦で失った民族間の信頼と、その後の長い冷戦を見れば、この映画を複雑な思いで見る方は案外多いのではないかと思わせる。

当時の独裁政権のみを批判するのは簡単だし、批判されて然るべき歴史的な事実が残されている以上、それそのものを批判するのは意味がない。

戦争そのものが狂気であることは誰もが認めることであって、このことは多くの映画や書籍で紹介され、なおかつ誰もが知っていることでもある。

この映画のすごいところは、虐げられたユダヤ人が、誤解の中から同じ民族を追い込み虐げることがあったというところだ。これは苦しい判断だと思う。体制と反体制という、ある意味わかりやすい関係を映画にすることは簡単だ。しかし、この映画では、体制に対抗するために自分の人生を賭してスパイ行為を行う女性が、時代の反転の中で苦しむ姿をリアルに厳しく描いているところだ。

体制側が悪い、反体制は虐げられる、という対峙的な表現は、この映画の主題ではない。そんな時代のスパイラルに陥った女性の悲しい物語。こんな視点で語られる映画はこれまでなかったのではないか?

バーホーベンという監督は『ロボコップ』や『氷の微笑』、『インビジブル』など、ややゲテモノ好みの監督という認識だったが、この映画で彼は漸く母国の真実を描こうとし、見事にそれを成し遂げたように思える。

主演のカリス・ファン・ハウテンの演技も素晴らしい。ここまで体を張った演技をするとは、言葉もないほどだ。才能にも恵まれ、挑戦的な彼女の演技も賞賛したい。

長く辛い映画だが、われわれの生きる社会でも、その体制の中で自分の立脚点を失うと、それはそれまでに自分と正反対にあったものが、そのまま自分に反響するものだということを学ばせてもらったような気がする。

怖い映画だった。

(評価:★5)

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