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[コメント] ママの遺したラヴソング(2004/米)

アメリカ文学からの縦横無尽な引用に満ちているにも関わらず、作り手たちはそこから何も学んでいない。
G31

 ジョン・トラボルタの演じ上げてみせる孤独感、その孤独が生む悲哀の感じが比類ない。アメリカ社会は、一人の職業人として働き続けてきた男、一人との夫として、また何人かの子供らの父として、家庭や地域へ貢献し続けてきた男に対し、この程度の老後しか用意してやれないのか、と一瞬思わせられるほどである。しかし考えてみれば、豊かな才能を無駄に使い、家族を省みず、放蕩的な生活を選択してきたこの男に全責任があるのであって、まったく同情の余地はない。

 要するに、彼がいかなる経緯を経てこういう状態に陥ったか、ということは重要ではなく、ただ悲嘆にくれた年寄りがそこにいる、というファクトのみが必要だったわけだ。アメリカ社会には、さまざまな経緯を持ちながら、惨めな老後を過ごさざるを得ない階層があって、その階層に向けて慰みとなる映画を作ろうというような、作り手側の事情が推察される。ただし、彼自身が何か行動を起こすわけではないのに、いろいろな出来事からいろいろな事情が明らかになって、なんとなくハッピーな結末を迎える、といった話では、その場かぎりの(つまり、せいぜい映画を見てる間の)慰みにしかならないだろう。もちろんそういう映画はあっていい。

 私が嘆息を禁じえないのは、アメリカ文学からの縦横無尽な引用が散りばめられているにも関わらず、作り手たちがそれら文学的素養からまったく何も学んでいないという、労力の膨大な浪費に対してである。

65/100(07/09/08見)

(評価:★2)

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