[コメント] こわれゆく世界の中で(2006/英=米)
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エンドロールが始まって「監督・脚本 アンソニー・ミンゲラ」という表記を見たとき、なぜかすごく納得ができた。過去の作品でもミンゲラは自ら脚本を手がけているが、今回はオリジナル脚本だということが妙に伝わってきたのだ。『イングリッシュ・ペイシェント』『リプリー』『コールド・マウンテン』と原作モノを撮ってきて、監督自身の中に自ら表現したいものが湧き上がったのが、おそらくこの作品なのであろう。
“Breaking and Entering”という原題が、タイトルに表れるほどにストレートな主題の映画だ。破壊は創造というテーマを、建築家である主人公とうまく重ね、痛切でありながらも優しく綴っていく。ポール・ハギスの『クラッシュ』とも似たタイプの映画だと思う。決して素晴らしい世の中ではない現代だが、その中で微かな優しさや希望を見つけ出して生きていく。そのメッセージは『クラッシュ』にもこの映画に共通している。
ジュード・ロウ演じる主人公は建築家として成功していて、ビジネスの面では不満はないだろう。だが、家庭は複雑な状況にあり、プライベートは満足していないだろう。ただ、客観的に見れば、全然幸せな部類に入る人間だと思う。ジュリエット・ビノシュ演じるボスニア難民の家族と比べれば…。
その彼が、おそらく心のどこかに残っている棘のようなものを払拭するために、一度自らの人生を壊してみようと試みる。男女関係において一線を越え、自分の本当に行きつくべき場所はどこなのか探していく。そして、その過ちをいかに償うか…。男の不倫や浮気とは、こういった自分を壊したいという願望に繋がる部分があるのだろう。
主人公の心情説明に一貫性があることに加え、壊れている世界の状況をうまく絡めてくる。ボスニア内戦の話であったり、スラム街の状況であったり。より深く、物語が伝わってくるように。終盤に集約させていく構成も見事だ。
アンダーワールドが手がけた音楽もあり、破壊の行く末に終着した場所には、ジーンと響くものがあった。少しきれい過ぎるのでは、という疑問も残る。だが、きれい過ぎにならないように、という目配せがされているのもわかる。規模は小さいが、作家自らが描きたいことを丁寧に綴る。こういう佳作はフィルモグラフィーの上で必要だと思う。
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