[コメント] あるスキャンダルの覚え書き(2006/英)
ショットの頻繁な切り換えも、混乱はなく躍動的。緩やかに揺れるカメラワークの浮遊感。女優二人の演技力が込められたアップが、画面に重みを加える。P.グラスの曲は単体では単調だが、先を急ぐような速度感が映像に上手く乗る。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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ラストは某有名スリラー映画を連想させられる。愛情の対象への一方的な幻滅と、懲りずに次の獲物へすぐに興味を移す、管理と支配への欲に憑かれた人物。獲物である若い女が飲み物を口にしたとき鼻先に泡がついたのを指摘してやるバーバラは、他人のミスや欠陥を見つける事からまず入る、親切心とコントロール欲求が表裏一体である自己愛的な人間だ。要は「ペット」を求めているのだ。音楽についてなどの会話を交わし、一緒に肌を擦り合わせていられるペット。ジュディ・デンチの、周りに皺を刻んだ目が見つめる時の、冷静な観察眼と執拗な執着心とがピタリと貼り合わされた眼差しが印象深い。オールドミスの哀愁と、爬虫類的な無機質さ。結局シーバは夫の許に舞い戻り、バーバラも再び例のベンチで獲物を捕獲。繰り返される人の業。脚本自体は割と通俗的な心理劇に過ぎないが、主役二人の存在感と、場面の流れ、更には音楽が織り成すリズミカルな惨劇の、奇妙な快感。反復のドラマと音楽的快楽、この映画はグラスの反復音楽にとって最高のミュージック・ビデオでもある。だが、そのあまりに図式的な結末のせいで、デンチの名演が残しかけた余韻が断ち切られるのが惜しい。
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