[コメント] パラダイス・ナウ(2005/仏=独=オランダ=パレスチナ)
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そこら中に瓦礫が積まれた白い街。丘の中腹、未舗装の小道を住民がぞろぞろ連なって歩いているときに銃声が鳴り、人々は一斉に中腰になり首をすくめる。このショットがすごい。これがリアルというものだろう。
私は水タバコ吸っている人を始めて観た。このぐうたらユーモラスなふたりが報復テロの使命受けて「神のご加護なら」と淡々と承諾するのに序盤から衝撃がある。彼等は本邦の特攻隊のような決まった型を持たないように見える。誰にも告げられない一晩、黙った彼をキャメラは淡々と追う。サイードの母ヒアム・アッバスのエンジのヒジャーブと真っ赤な普段着がとても格好いい。彼女はコーヒー占いをする。「不吉、未来が真っ白」。
「映画を観たことある?」「映画館に火をつけたことがある」箆棒な主人公だ。映画は彼等を嫌っているのかも知れない。旗を背に銃を担いで読む遺言ビデオ(商店で公然と売られている光景が後半に出てくる)撮影、キャメラは不調で止まってしまう。
五分刈りのスーツ姿、パンクロックのような格好に変身してテルアビブ行、二年振りの「世界が驚く作戦」。結婚式と云え、ひとりが自決し人が集まったところでもうひとり自決しろ、先に決行した者の姿は見るな、の指示。「死を恐れない者が生を支配する」アメル・レヘルの ジャマールはキリーロフのような説明をする。国境線は簡単に越えられる。
ここからの後半は糸の切れた凧のような展開が物凄い。ふたりのうちサイード(カイス・ナーシェフ)は腹に爆弾巻いたまま話は展開する。イスラエル側の案内人の裏切りに違いなく、組織でもどうしようもないのだろう。帰ってくるのを待たずに撤収するのは間抜けだ。
父は密告者だったという告白がある(パレスチナ人のイスラエルへの密告ということなんだろう)。恐ろしい話だった。ここでも報復の連鎖は止まらなかった。彼は決意を語る。「屈辱の人生」「世界はそれを遠巻きに眺めているだけ」「占領者は自分を被害者だと思っている。加害者と被害者を同時に演じるなら、僕らもそうするしかない」テルアビブに潜入、非暴力を説いたスーハ(ルブナ・アザバル)との出会いで:考えを変えたハーレド(アリ・スリマン)をひとり返して、サイードは軍人だらけのバスの中。両目のアップ、空は暗くなった。
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