[コメント] きみにしか聞こえない(2007/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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目の前の死体の手を握りながら「どうか死なないで」と祈る少女のシーンに行き着くまでの手筈が見事に整っていて、本当にうまい、プロの手によるプロフェッショナルな物語と思う。事故以降の展開には鳥肌が立った。本当に感嘆した。
だが、泣けなかった。それどころか、少しも切ない気分にならなかった。子供騙しとも思えた「心の携帯電話」「時差」といったギミックにひとつひとつ丁寧にドラマが乗ってゆき、小出の「聾唖者」という設定が最大限効果的な形で生かされてゆく映画を眺めながら、なんてまぁ本当に巧い物語を作るものだと、ただただ感心するばかりだった。
物語的に面白いシチュエーションを形づくることにかけて、乙一という作家は群を抜いて優れていると思う。16歳で書いたというデビュー作からして物語は実に見事なテレマーク付きの着地を決めており、彼はストーリーテラーとして異能者とも呼べるくらいの才覚の持ち主だろう。だが、そういったシチュエーションに放り込まれた登場人物たちの感情や行動には、あまり驚きがない。そのギミックの機知に比べて、ありていな動き方しかしない。突き抜けないし、何をするか解らないという不安がない。それが、好意的に観れば万人に理解しうる普遍性を備えたキャラクターであるということなのだけれど、どこか借り物の人物を自分の仕掛けの中で動かしているような「箱庭的」な印象があるのも正直なところで、私が「乙一映画おもしれーおもしれー」言いながら、いまだに★5を付けられないのは、そんな理由によるものなのだ。
つまりは、乙一にはまだ伸びしろを感じるのである。これだけ完成度の高いギミックが仕込まれた物語の中で彼が人間の魂の叫びを、個人的な感情の爆発を表現し始めたとき、どんな物語が生まれるのだろう。期待したい。
唯一、高田総統だけは何をしでかすか解らなくて冷や冷やしました。
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