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[コメント] インランド・エンパイア(2006/米=ポーランド=仏)

こんなもん見せられるとわかっていたら見ていたかどうかわからないけど、それほど損した気分にはならなかった。まぁ、その程度。
ishou

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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いつも通りのリンチ節とおもいきや、あまりのシュールさに面を食らうことに。いや、いつも使っていた手練手管であることは間違いないが、その徹底ぶりは過去に類を見ないほどであり、もはや別次元に突入していた。映画においては絵的な美しさやプロットの妙を期待する全くもって凡庸なセンスをもちあわせているワタクシにあっては、この3時間にわたる怪奇映像にたいする反応は、薬毒的快楽でも審美的錯乱でもなく睡魔だった。ひたすら眠くてしかたがなかった。でもこれが結構重要なんじゃないかと。

思えばリンチの作品は刺激的でありながら、どこか眠気をさそう作品ばかりだった。とくに『砂の惑星』『ブルーベルベット』あたりは、正直、正視しているのも困難なくらいだ。そして『マルホランド・ドライブ』では夢そのものがモチーフとなる。とりあえず全ての日常的刺激からはなれて、肉体的活動を遮断したところに夢がうまれるように、リンチの映像は日常的な思考ではどうにも理解できないものをもたらし、しかし1+1が2である程度にはかすかな合理性をみせ、関心をとどめてみせる。全く無色無音である場合には、雑念が脳を支配することがあるけれども、微妙な思考可能域をのこすことによってギリギリのところで対象に意識を繋ぎとめているかのようだ。目をあけた状態にありながら意識レベルは極限まで低く抑えられている半覚醒状態。これはわれわれの思考という防壁をのりこえて深層心理に影響してしまうというサブリミナル効果が働くプロセスに類似するものであり、実際に本作でもフラッシュのように一瞬で消える映像的サブリミナル、あるいは胎児が羊水のなかできくような濁った雑音と鼓動にあわせた脈動音がけっこうな頻度で聞こえてくるなど(ほかにもあると思うのだが)の音響的サブリミナルが確認できる。これは本来は軍部かあるいはCIAや公安などの諜報部が得意としそうなことだが(実際に行われていたという話)、催眠術・洗脳の分野に属しているものだと思う。

このように、リンチの関心は娯楽や芸術という枠をこえて、もはや脳機能にたいする科学的なものになっている気がするのだ。そして、娯楽性・芸術性を排したかのような本作の目的は、半覚醒状態の誘導、ただその一点のみにあったと思える(これは私の勝手な解釈にすぎないが)。

いずれにしても、こんなわけのわからんものを作るリンチには全くついていけないし、一分の理解もしめせない。むしろ、誤解にもとづく悪影響のおよぶ範囲が広くなる前に速やかに隠居してもらいたい気さえするのだが…。まぁ、それでもこんなことできるのは彼しかいないわけで。しょうがないから綺麗なおっぱいに+4点ということでお茶を濁しておく(ここだけはなぜかバッチリ覚醒していた)。

(評価:★4)

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