[コメント] 西部戦線異状なし(1930/米)
ルイス・マイルストンの演出はとてもヴィヴィッドだ。戦闘場面、塹壕の描写は今見ても恐ろしく臨場感がある。フランス女達を誘う川での水浴びシーンの危ういカメラの視点もいい。ルー・エアーズが休暇で帰宅した際、妹と蝶に関する会話を交わすという複線のさりげない提示も見事なものだ。
しかし反面、今見るととても幼い演出も散見される。例えば冒頭、学校の大きな窓の造型と縦構図のカットには瞠目するが、その後、先生と生徒のサイレント臭い、というより非常に作為的な顔面のクローズアップが連続する。シーン全体としては窓の内外を対置して機能させた、窓の使い方としては見事な演出なのだが、私はどうしてもこのアップ挿入の嫌らしさに違和感を覚えてしまうのだ。このような居心地の悪さが随所にある。或いは戦場のシーンでも判り易過ぎるビュジュアルイメージが横溢する。戦争映画であるにもかかわらず印象的な夜の画面が希薄なのも私は不満だ。
画面の幼さは当時としては仕方がないだろう、という気もするが、映画史には1930年当時でも、いや1920年代でも、いやもっと前であっても、現在の映画と遜色のない成熟した画面の映画が幾百とあるのだ。同年製作の反戦映画としては『地獄の天使』よりもずっと評価の高い本作だが、私には『地獄の天使』の方が成熟した映画だと思える。
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