[コメント] ウェイトレス おいしい人生のつくりかた(2007/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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劇中の「会話に飢えていた。心を通わすことに飢えていた」という台詞(モノローグ)が象徴的なんだと思うけれど、この作品は、言葉にすることの大切さ、というのかな、言葉にして表現する、ということを大切に描いていたと思う。もちろんそれは<不倫は悪いことだしアールに殺されたくないパイ>みたいなパイのネーミングにも表れているわけだけど。
ジェナは、基本的に、何事にも、どんな人に対しても、フランクであろうと努めている人。だが夫・アールにだけは脅えていて、彼に対しては平然と嘘をつくし、過剰なまでに<貞淑な妻>を演じる。それは、(もちろん本当に脅えているからだが)夫自身が率直な物言いをする人で、それも「俺を男として扱え」だの「亭主として敬え」だの、本当に強い男なら言う必要がないし、強がる男でも言いたがらないような、男の弱音を吐露するタイプの男であるからだ。
ジェナ自身の内にも、男のこういう価値観を許容する部分があるからだが、フランクさだけでは、この弱音に対処できない。フランクとフランクがぶつかり合って、彼女の中で消化できない、その矛盾が彼女の感情を押し殺し、同僚の前でさえ<暴力的な夫に縛られた従順な妻>を演じさせてしまうのだ。
夫・アールも、それなりに稼ぎのある男として描かれている。犯罪者でもなければ、そんなに悪いところばかりの男ではないはずだ。本来は、お腹の子供の実の父親でもあるのだし、彼と向き合って関係の修復を図るのが望ましい対応策だろう。だから、出産直後にジェナが満を持した感じで夫に啖呵を切るシーンには、それなりに痛快さも感じはしたが、ちょっと残念な気持ちがした。
だが、画面の奥へ進む主人公の後姿が小さくなっていくという、チャップリン以来の映画史的なエンディングもそうなのだが、これは映画ですよ、エンターテイメントですよというシグナルがそこかしこにあって、存分に楽しめました。
80/100(08/03/30見)
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