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[コメント] ペルセポリス(2007/仏=米)

国境を跨いだ場所で考えるということ
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







おかしいと思ったことを、おかしいと云える人は稀だ。マルジャンはちびまる子ちゃんそっくりに描かれるが、ふたりは似て非なる存在だ。まる子は日本人に相応しく、おかしいと思ったことを独白するキャラである。ふたりの間には果てしない隔絶がある。ウィーンに留学するマルジャンに父は「自分が何者で、何処から来たか忘れるな」と云う。まる子はお父さんにこう云われたことはあるまい。

マルジャンは教師の偏向に授業中に抗議して、両親にウィーン留学させられる。彼女の人格の彫琢は奈辺から来るものであるか。本作はこれを明快に説明している。国境を跨いだからだ。父がソ連から戻ったコミュニストであり、自らも国境を跨いで出自を相対化する機会を得た。ソ連やウィーンが重要なのではなく、イランを相対化するのが重要なのだろう。

神から闘争を告げられた彼女はEye of the Tigerで踊る。彼女の闘争に『ロッキー3』はまるで不釣り合いだが、抽象的な歌詞から我々には思いもつかなかった可能性を摘出しているのが驚きとともに伝わってくる。マルジャンは欧米のポップカルチャーに我々とは違う意味づけをしている。それも国境を跨いだ場所で考えるからなのだろう。

イラン革命から説き起こされる政治事情は惨たらしい。イラン・イラク戦争は両国が武器を消費して外国の軍需産業を肥やす8年間だったと的確に指摘される。政治犯は国道に名前を残すのみ。そして革命防衛隊の銃持っての監視と投獄により政治を語る者はいなくなった。「パパとママが15歳の頃は手をつないで歩けたよ」と、イスラム教による締め付けが指摘される。

こんな情報はいつか聞こえてこなくなるかも知れない。我々は覚えていなくてはならないし、良心的なイラン映画をサポートしなくてはならないと思う。イランがパンクすれば第三次大戦なんだもの。本作、意欲的過ぎてやや情報を詰め込み過ぎのきらいがあり、機会があれば漫画を読んでみたい。

(評価:★5)

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