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[コメント] ノーカントリー(2007/米)

どこに焦点を当てているのかは相変わらず不明ながら、その投げ掛ける影のどす黒さだけで背筋も凍る。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 コーエン兄弟が培ってきた靴の上から痒いところを掻く演出スタイルが、ようやく実を結んだと思える作品。内容的にすぐ比べたくなるのは、冷酷無比で執拗な殺人マシーンを現カリフォルニア州知事が演じた『ターミネーター』。当時のチープな映像技術(実際に予算も乏しかったことと思う)でいかに無機質な感じを出すかに苦しんで見えたのと比べると、本作は逆に、最新の(CGやら)技術を注ぎ込んで、徹底的に生身の人間の行為に見せる腐心が感じられる。結果として、殺人機の残虐な暴力に、ついうっかりわれわれが感じてしまう≪痛快さ≫は影を潜め、ひたすらどす黒く不快なものと描き出している。暴力を扱う映画に求められるモラルとしては、誠実であるとさえ言えるかもしれない。

 善玉(観客が肩入れして見る側)と悪役の振り分けも上手い。バビエル・バルデムは無論徹底悪だが、この手の作品はともすると、正義の側がひ弱く女々しく見えてしまうことがある。初めはどちらともわからないジョシュ・ブローリンを、水を飲ませに戻らせるなんて話で観客の側につけるエピソード処理なんか見事だ。もっとも、彼が何を求めてそんな(水を遣りに戻るという)リスクを冒したのかは、最後までわからなかったけど。

 結局のところ、これらの点がこの作品をB級映画的雰囲気にとどまらせている。なぜ無敵にしか見えないバルデムが、冒頭であんな保安官に捕まったのか。なぜウッデイ・ハレルソンにはユーモアのセンスがないのか。追突事故を起こした突っ込んできた方のドライバーの存在はどうなっちゃったのか。

 B級映画としての最高点を着けることにする。

85/100(08/05/04記)

(評価:★4)

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