[コメント] 暗殺者の家(1934/英)
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日本に紹介された最初のヒッチコック映画にして、後にアメリカで『知りすぎた男』としてセルフ・リメイクされる事になる監督のイギリス時代を代表する作品。監督本人はさほど本作の出来には満足していなかったようだが出来は水準以上。盛り上げ方と良い、アイディアと言い、監督ならではの演出がふんだんになされている。実際の話、この時代の制約の多い映画でこれだけ緊迫感のある、そして楽しい作品を作ることが出来たって事だけで絶賛しすぎって事はなかろう。
先ず特筆すべきは演出面。様々なところで監督らしさが溢れている。
演出で有名なのはコンサート中、一度だけならされるシンバルの音に合わせて狙撃するというアイディアだが、それを知って焦りまくるジルの引きつった顔を被せることで、緊張感を本当に良く演出できていた。
個人的に気に入った演出は、ラストの銃撃戦。銃撃戦そのものよりも、そこへの入り方が巧い。元々本作は1910年に起こったロシア人アナーキストと警官隊との包囲戦で当時“シドニー街の銃撃戦”と呼ばれた実話が元なのだそうで、市街戦の緊張感は当時を知っているからこその演出だろう。あたかも自分は死なないと思いこんだかのように堂々と正面から暗殺団の家に向かっていき、あっけなく殺されてしまう警官と、その死を見て、初めてこれが現実であることを認識する市民の対比は今観ても見事な出来映え。
後はパイ投げならぬ椅子投げは笑えた。多分ぶつかっても痛くない素材を使ってるんだろうけど、スタントを用いてるようには見えないので、やってる方は大変だろうな。壊れまくる椅子を投げ合うのはなかなか爽快感があるよ。
そしてこれも重要なキャラクター描写。
監督作品の特徴として悪役を魅力的に描くって点が挙げられると思うが(古くは『巌窟の野獣』(1939)のロートン然り、『サイコ』(1960)のパーキンス、などなど、皆主役を食うほどの存在感を出していた)、本作のピーター=ローレも良い。ローレは今までロジャー=コーマン作品で何度か観て、特徴ある俳優だなあ。とか思っていたが、本作はその存在感を余すところなく出していたのではないか?こう言っちゃなんだが、愛嬌ある悪役が似合う役者だ。
確かに話の流れが少々わかりにくいと言うところもあって、そこがマイナス点になってるけど、アイディアと言い、緊迫感と言い、優れた内容の作品。
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