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[コメント] 書を捨てよ町へ出よう(1971/日)

本作も、タイトルのフレーズが画面や科白として一切出てこない部類の映画だ。ほとんど脈略のないエピソードやイメージを繋げたものだが、一応、主人公の家族と、サッカー部の関連が、若干ストーリー性がある。
ゑぎ

 プロローグとエピローグは、いずれも主人公-佐々木英明がカメラ目線で話しかけて来るメタフィクショナルな部分だ。彼の方言もいいし、いきなり煙草をカメラへ突きつけて来る変化のある演出や、何より、エピローグ(120分頃)の劇場照明も使った趣向には驚かされた。

 主人公-佐々木が住んでいるのは、新宿区戸塚。都電軌道の側の、廃墟のような長屋だ。グリコの看板が取ってつけたように壁にある。父親-斎藤正治と妹-小林由起子と祖母がいて、祖母は万引き常習犯なのだが、これを戦前からの名脇役の田中筆子がやっているのには驚いた。この人らしい、しらばっくれる演技が面白い。また、妹はウサギを連れて散歩ばかりしており、ウサギとやっている、という噂がある。都電軌道の上を走る佐々木をブレブレの映像で追う画面が印象に残る。

 また、佐々木が出入りする大学サッカー部の部室の場面が度々挿入されるのだが、こゝは鬱陶しいと思った。部室のシャールームでの、湯気の中の撮影で、カメラマンがレンズ(フィルター)を布で拭くところが映り込む、といったショットも私は嫌いだ。サッカー部員の上級生で平泉征(成)がおり、佐々木を連れて、娼館へ行くシーンは、美術など興味深い造型だが、娼婦のみどり-新高恵子との濡れ場は、ちょっと冗長だと思う。その後の、サッカー部のシャワールームで、部員たちに妹が輪姦される演出も、いい加減な見せ方な上に、長いと思った。

 良い部分をあげると、主人公の夢のイメージだろう、砂浜での人力飛行機にまつわる場面が何度か入るが、この部分は、私には清涼効果があると思えた。紫の空がとても美しい。それと、100分を過ぎた頃にワンシーンだけ登場する丸山明宏美輪明宏)が、さすがの存在感を示すのだが、その次のシーンで、三船敏郎が登場する、というこの繋ぎが一番可笑しかった。

 尚、エピローグの佐々木のモノローグ中に、撮影現場の感想があり、監督の寺山さん、撮影の鋤田さんという風に名前が出る。撮影の鋤田正義は、映画作品は本作のみのようだ。助手の仙元誠三がかなり助けたのだろう。あと、エンドロールの代わりに、スタフ・キャストの顔(正面)を左へパンしながら見せるのだが、最後(トリ)の見せ方は、やっぱりこれでしょうね。落ち着きのよい順番なのだ。

(評価:★3)

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