[コメント] NEXT -ネクスト-(2007/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
劇中、クリス(ニコラス・ケイジ)は、2分という時間の制約を越えてリズ(ジェシカ・ビール)のイメージを得た事を、彼女が運命の女性だったからだろうかと朧げに推測しているが、これは或る意味、正解だろう。彼がリズとの出逢いを予知し得たのはおそらく、「2分後の自分を予知している2分後の自分を予知している2分後の自分を…」という繰り返しによってだ。
その事が推測できるのは、何よりも、クリスが、テロリスト達の潜む、通路が縦横に入り組んだ場所で、一人佇んだまま予知能力による探索を行なう場面。彼は予知イメージ内で、未来の自分を偵察に出し、通路の分岐点に来るたびに、各方向へ自分の分身を、単細胞分裂のように分離して送り出す。これは、先述した、「未来はクリスの行動によって分岐する」と、「2分後の自分を予知している2分後の自分…」の繰り返しによる予知の延長、という二つの併せ技が可能な事を証ししている。現に、探索の目標を発見して予知イメージから現実に戻った時のクリスは、最初に立っていた場所から一歩も動いていない。
勿論、こうした予知の予知の予知の…という能力の拡張は多大な集中力を必要とするだろう。その証拠に、フェリス捜査官(ジュリアン・ムーア)の前で予知を試みるクリスが、彼女に「話しかけるな、集中させてくれ」と頼む場面もある。加えて彼は、自分に関係する事しか予知できない。これらを考え合わせると、クリスがリズとの出逢いを予知したのは、彼が無意識下で求める理想の女性がまさにリズであったからだという事、そしてそうした女性を求めるクリスの想いがよほど強かった、という事が推察できる。
実際、クリスは、リズと出逢うカフェにあった時計の時刻が午前か午後か分からないので、毎日二度、そこに同時刻に通い続けており、遂にリズが眼前に現れた際も、幾度も予知による試行錯誤を繰り返して、どう声をかけるか慎重に見極めていたほどなのだ。そして、彼女と関係を作る為なら、男に思いっきり殴られる事をも厭わない。尤も、傍目にはリズは割と平凡な女性に見えるのだが、本人にとっての理想の女性などというものは、そんなものなのかも知れない、とも思う。
クリスが、リズを人質にとる犯人と対決する場面では、彼は現実の弾丸を避ける為に、予知イメージ内の分身を何度も射殺されているのだが、こうした所に、彼の予知能力に漂う一抹の哀しさがある。
この映画、最終的には、後半の展開が全てクリスの予知イメージであった事が分かるという、一種の夢落ちなのだが、これが可能であったのは、リズの一つの決断が有ってこそなのだ。彼女がもし、フェリス捜査官のついた嘘を信じてクリスを欺き、薬を飲ませていたら、彼は恐らく2分以上意識を失い、そこで予知は途切れていただろう。リズが彼を信じ、薬の件などを告げるのは、クリスが彼女に自分の予知能力を実証して見せる前。つまり彼女自身の意志でクリスを信じたのだ。この決断が為されるのは、クリスの予知イメージ内の事とはいえ、「予知した時点での、未来の事実」なのだから、同じ事だ。
こうした複雑な物語の構造については、上述したように、それが推測できる場面は含まれてはいるが、台詞として分かり易く語られている訳ではないので、観客から不親切と思われてしまう危険はある。だが、クリスやリズが示したような「想いの強さ」というものは、言葉で説明されるのではなく、観客の方で気づいてこそ、説得力がある。ここは観客が、脚本家や演出家の信頼に応えるべきだろう。勿論、この分かり難さについて単に制作者側が気づかなかっただけ、という事もあり得るとはいえ。
前半は、FBIが監視カメラの記録ビデオによってクリスを追う、という、彼の予知能力と対照的な、「過去」で「公的」なイメージで対抗するという面白味があったのだが、そこは余り展開されていなくて少し残念。しかし後半でクリスは、『時計仕掛けのオレンジ』のような装置でFBIに無理やり見せられたニュースから、リズの爆死という未来を見る。図らずも、公的な目を逆手に取ったのだ。そして、虚無的で、自分以外の事には関心を向けようとしなかったクリスが、最後には、リズを救う、という条件で、多くの他者の命をも救おうとする。この「意志」の成長が示された時点で、物語としては充分だ。決して尻切れトンボな結末などではない。
フィルムが逆回転しているかのようなエンドロールは、映画というものが、時間を操作するイメージの集積である事を感じさせる。クリスが「まるで映画を見るように」と形容できる形で予知能力を駆使していた事と、どこかアナロジーを覚えずにはいられない。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。