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[コメント] ランボー 最後の戦場(2008/米=独)

強引かつ手短に『ランボー』シリーズの幕引きをやった感がある。確かに面白いが、エンターテイメントのネタにしていい題材なのだろうか?
サイモン64

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







副題からして「『ランボー』もこれでシリーズ最終作なのかな?」と思わせるが、原題は "John Rambo" であり、どこにも「これで終わり」なんてことは書いていない。そういえば、『ロッキー・ザ・ファイナル』の原題が "Rocky Balboa" だったことを思い出した。アメリカ人は、映画やアルバムのタイトルには大してこだわらないのか、言葉に対するセンスが「名は体を表す」と考える我々とは違うのか。

それはともかく、『最後の戦場』は、強引かつ手短に『ランボー』シリーズの幕引きをやりましたという感漂う仕上がりである。

世捨て人と化し、タイの奥地でひっそりと暮らすランボーをキリスト教系慈善団体ご一行が訪れ、依頼する。「ビルマで迫害を受けているカレン族を支援したいので、船で川を上って我々を連れて行って欲しい」、と。武力の支援もせず、助けるだけなんて無駄なことだと一度は頼みを断るランボーだが、その真剣味に意義を感じて、彼らを連れて行くことにする。

川上りの途中に襲ってきた海賊から一行を守るため、ランボーは海賊一味を一瞬で皆殺しにするのだが、救ってやった慈善団体からは「殺人は良くない」と反対に非難されてしまう始末で、誠に理想主義者や原理主義者というのは始末に負えない連中であることよと、ランボーと観客一同は大憤慨である。

案の定、一行が慈善で乗り込んだ村は敵対勢力から攻撃され、虐殺の限りを尽くされ、一行は全員囚われる。ここまでは完全に予想通りの展開である。

この連中を救うため派遣された傭兵軍団を、ランボーはまた、船で運ぶ。 そして、ビルマの悪鬼のごとき敵対勢力の一部隊をランボーが義憤により倒し、傭兵軍団を一気に自分の手下にしてしまうのである。そのときのセリフがすごい。「意味無く人生を送るか、誰かを助けて死ぬか、お前が選べ」と、傭兵軍団のリーダーにすごむのだが、「いや、俺達、金で雇われて来ただけなんっスけど!」と、私は内心突っ込んでしまった。

強引にレスキュー軍団が結成された後は、夜襲・救出・脱出・大乱戦という、これまた予想通りの終わり方に、ちょこっとした幕引きのエピローグが付いている。

実に派手なアクションがリアルに描かれ、本来なら大興奮のウチに劇場を後にするところであるが、私は見ている間中、ずーっと複雑な思いを感じてしまった。

違和感の最大の源はビルマという国の扱いにある。映画での敵対勢力は現行の軍事政権のことを指しているものと思われるが、この連中が、悪魔でも泣き出すような虐殺を行うのである。私はビルマという国で実際にナニが起こっているのか全く判らないが、こんな一方的に決めつけて良いのかと感じた。

また、殺りく描写はきわめて直接的なため、飛び散る肉片、裂ける肉体が随所に登場する。あまりに情け容赦なく人が死ぬので、目をパチクリしてしまった。

最後の最後は敵方皆殺しになるのだが、もう、いっそのこと敵・味方なく全員殺りくしても、事態は同じではないかとさえ思ってしまったほどの、人の死にっぷりだった。

そしてこれは根本的なことだが、平和ボケ頭のキリスト教系慈善団体が、丸腰でノコノコと紛争地帯に乗り込まなければ、これだけの無駄な殺生は起こらずに済んだのである。彼らがのんきにピクニック感覚で乗り込んだために、助けた以上の人命が奪われるのである。悪の手先にすら親・兄弟・家族はいるのである。そういう矛盾が、この連中の中でどんな整理が付いているのか、そして結果として大量の命と引き替えに、自分たちの命を救われた彼らはこの後どういう行動をするのかは描かれないのだが、その辺も描いて欲しかった。これはちょっと意地の悪い見方で、慈善団体の「何かせずにおれない」という気持ちは重要だともちろん思っているのだが、単にかき回しているだけという見方も出来なくはない。

便宜上ランボーに敵対する軍隊を私は「敵対勢力」と書いているが、内戦状態にあるこの国家において、敵だの味方だの、むなしい概念ではないかと思う。善悪二元のモデルを現実の国家に当てはめるのは余りに無理がある。大日本帝国軍は常に悪だったか?アメリカ軍は常に善だったか?こんな映画を作るくらいなら、その費用を事態の改善に役立てるという発想は無かったのだろうか。

ランボー』第一作のテーマであった「国家のためにがんばったのに、理解されず、のけ者になってしまう悲しみ」のようなものは消え失せ、彼の動機はいったい何なのかと思ってしまう。

で、これだけいろいろ感じることを書いてしまうと、さぞかし評価は低いんだろうなと思われるかも知れないが、私の中にはこういう直接的な見せ物を楽しんでしまう性質があって、その部分はどうにも押さえることが出来ずに、「非常に面白い」と思ってしまった。

あと、実在する武器はものすごくリアルに描かれており、銃器の類が好きな人にはたまらない映像もあるだろうと思う。

なお、デートで観に行くのはやめるべきだ。そうでなければ「もう!こんな気持ち悪い映画キライ!」と、彼女が立って帰ってしまうのではないかと、1時間半心配し続けなくてはならないこと受け合いだ。

※文章中、「ミャンマー」ではなく「ビルマ」と表記したのは、映画内でこの国の名前が "BURUMA" と表記されているためにそうしただけで、私個人の信念や信条によるものではないことを、お断りしたい。

(評価:★5)

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