[コメント] 靖国 YASUKUNI(2007/日=中国)
もうこれだけ叩かれているのなら、さぞや靖国とわが国・日本を徹底的にこき下ろす…とまではいかないにしても、相当の重いパンチを打ち込んでくる作品だと思っていたのだ。ところが旧知でない事実は、「靖国刀」の刀鍛冶が未だ刀を打ち続けているということだけで、あとは何と言うこともない、TVスペシャルの長時間版としか表現できないものだった。
とにかくリ・イン監督の日本語能力の未熟さで、刀匠との間の会話が噛み合わないことといったらない。「刀が戦争でどういう意味を持つか」なんて、一介の刀匠が普段考えている問題であるものか。その上、「いつもどんな音楽を聴いているんですか」なんて頓珍漢な質問をするものだから、刀匠は意味も判らずに天皇の挨拶テープなどを流すこととなり、さぞや外人観客には深い「意味」を感じさせたであろう場面が出来上がってしまった。
そして残りは、特に珍しくもない小泉純一郎と石原慎太郎の発言、8月15日に大音声を張り上げて「英霊」を賛美する右翼、国歌を怒号で掻き消そうとする左翼、慰霊を取り下げてもらおうとする外国人・異教徒の家族、それだけだ。このうち最後のものについては、宗教に無頓着な日本人は「英霊」の返還をなすべきだとは思うが、後はいつもの夏の風景に過ぎない。勝手にやっててくれ、位のものだ。
事ほど左様に監督の能力は凡庸なのだが、そのフィルムに箔をつけるために戦犯裁判、出征風景、戦時中の事件、空襲、キノコ雲などという日本攻撃映画のお定まりのファクトをつけるのだ。おい、これは靖国の映画だろう。最後に意味ありげに出てきた昭和天皇の姿なんて、「まだこの血の歴史を経て天皇は命脈を保っているのですよ」とでも言いたげなのだが、その所業を具体的に示せなければ何の説得力も与えてはくれない。脈絡のなさには左翼だって笑いを隠せないだろう。
かく言う自分は右翼でも左翼でもないが、どちらに傾いたとしてもこんな映画には共感することができない。強いて評価できる思想と言えば、「人間と人間はどうあっても理解しあうことは出来ない」つまりはディスコミュニケーションが主題である部分だろうか。そのためにはこの映画を上映させなければならない。価値判断はその後に必ずやなされるものであるからだ。
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