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[コメント] トゥヤーの結婚(2006/中国)

往復15キロの井戸へ水汲みの日課。しかし本作は辺境の労苦を訴える映画ではないだろう。第6世代は軽快なコメディでもってモンゴルの豊かな生活を活写している。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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モンゴルの風景が御馳走の映画。西日のなか、トゥヤー(ユー・ナン)がふたこぶ駱駝に乗って羊を放牧する冒頭からすでに箆棒で、この悠久の光景と近代的なバイクの転倒事故との組合せが芳しい。立小便する息子も馬乗りこなす。牧草が過積載のオート三輪の見事な座礁。高級車は舗装道路にすいすい出て行く。元夫のいれられた福祉施設の窓から見える白馬で隣人のセンゲーは高級車を追う。大型トラックで放牧地に戻るとき、きれいな月が出ている。そしてボロボロの採掘車の遅ればせの到着。

遠く地平線の彼方に岩山の山脈が連なっている。ああいう光景を見て生活していると、近視にならないそうだ。井戸掘りに石油採掘と、大地を相手の生活。丸みを帯びた奇妙な山の頂上に馬で佇むトゥヤーを遠景で捉えたショットが私的ベストショット。本作のいいショットはしばしば西日が当たっており、終盤には見事な雪景色にかわる。日焼けしたトゥヤーの顔。佇まいが『秋菊』(92)のコン・リーに似ており何種類も持っているベールがおしゃれである。そして独特のコメディタッチも似ている。

足の悪い夫と離婚し、元夫とも同居して面倒みさせてくれる相手と結婚する、というモテまくる彼女の条件提示は結婚喜劇の常道だ。そして「かぐや姫」のようにやたら求婚者の来るギャグ。センケーは井戸掘りして条件呑んで求婚に成功するも失踪、トゥヤーが別の男と結婚決めた頃に間が悪くセンゲー戻ってきて「俺も同居させてくれ」何人夫がいるのやら、という爆笑。

実に華やかな結婚式、冒頭に戻るラストで子供がこの件で喧嘩して、元夫と新夫トゥヤーも喧嘩して、ドゥヤーは泣いている。さあ、この涙をどう見るかだけど、自分の重婚の計画が浅墓だったと知るドゥヤー、という結婚喜劇らしい収束とも取れるが、それでも重婚できて嬉し涙とも取れる処。全編にわたる一瞬のコメディタッチのアクションの数々がとてもいい。序盤のトゥヤーの脱臼はその後良かったのだろうか。

(評価:★5)

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