[コメント] 告発のとき(2007/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
ポール・ハギスのこれまでの経歴を見ると、この映画が単純なものではないことを理解できると思うんですね。『ミリオンダラー・ベイビー』から始まって、最近のダニエル・クレイグになってからの『007』シリーズですね。(最新作『慰めの報酬』はまだ見ていませんが・・・)いずれもシリーズとかキャラに囚われない奥深さを感じますね。
この映画の素晴らしい点は、物語としてのわかりやすさ、そして”犯人探し”というサスペンスを盛り込みつつ、昨今の”戦争”を”狂気”と位置づけたところでしょうね。かつて戦争映画といえば、国威を煽るような映画が多く、スクリーンに登場する兵士もヒーローでした。しかし、ベトナム戦争を描く映画、例えば『地獄の黙示録』に例えられるような、戦争そのものに疑問を投げかけ、戦争がもたらす”狂気”について描く映画が増えてきた背景が、この映画である程度総括されたような気がするんですね。
とても印象的なシーンがいくつかあります。
息子が焼死したのを確認して、トミー・リー・ジョーンズとスーザン・サランドン演じる夫婦が軍病院の長い長い廊下のずっと向こうで肩を寄せ合いながら悲しみに暮れるシーン。それは孤独の悲しみですね。周囲には白い廊下がずっと続いています。この悲しみが永遠に続くのではないかという絶望を表現しています。
自分自身も軍人であり、息子も軍人である父(トミー・リー・ジョーンズ)にとって、息子が殺された現実と、息子を殺した犯人が同じ仲間であったことを知ることが本当に利益のあることだったのかはわかりません。ただ、生前に息子から送られた星条旗をラストで逆さまに掲揚することで、アメリカという国と戦争行為そのものを否定するシーンがありますが、これもなかなか見事です。
クリント・イーストウッド監督の『父親たちの星条旗』もポール・ハギスが脚本を書いていますね。彼の星条旗(アメリカ合衆国)に対する、ある意味醒めた見方、考え方が良く表現できていて素晴らしい映画だったと思います。
戦争はもともと狂気の場ですね。そしてそこに参加する者(兵士)もさらなる狂気に堕ちてゆきます。息子が撮影していたビデオで、イラクの捕虜のキズをさらにいたぶるシーンに父親はショックを受けます。軍人としての自分のプライドがどんどん変化してゆく辛さを如実に感じさせるシーンですね。
さて、ここで最後にシャーリーズ・セロンについても触れておく必要がありますね。
うちのママとこの映画を(予備知識もなく)見ていたんですが、最初私が「この女の人、シャーリーズ・セロンかなぁ・・・」と申しますと、ママが「違うわよ」。私「そうかなぁ・・・」などとやりとりがあって最後のテロップで間違いなく彼女がシャーリーズ・セロンであることを確認するのですが、相変わらずのセロンアプローチ。(かつてのロバート・デ・ニーロをデ・ニーロアプローチと申しましたが・・・)作品ごとに個性とイメージを変化させて、演じる人の個性を殺し、役柄に入り込む凄さは、ここ数年の映画界で彼女だけでしょうね。『モンスター』で見せた恐ろしさ、『イーオン・フラックス』で見せた美しさ。いずれも彼女の個性よりも役柄に入り込む凄さを感じさせますね。すごい女優だと思います。参りました。
2009/02/27
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