[コメント] 崖の上のポニョ(2008/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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『ハウルの動く城』で戦争体験を批判的に表現した宮崎駿監督は、どうも今回もそういう社会に対する批判を描こうとしているように思えた。それはアメリカの911のようなテロなのか、本人の戦争体験なのか、それとも全く違う企業戦争のことなのかはわからない。わからないが、とにかく戦争というイメージが大きく映画全体を包む。そして和解へと続く。
先に結論から言うと、この作品で宮崎監督は、バブル崩壊後の環境汚染と、望むべき自然保護に対する考え方を描こうしているように思えた。
それは、グランマンマーレ(天海祐希)のセリフに印象づけられている。
グランマンマーレの「あら、わたしたちはもともと泡から生まれたのよ」というセリフである。
映画というのは、その時代を描くことを求められつつ、未来を予知する力も求められている。宮崎監督はその苦悩を、この子供向けの映画にぶつけようとしたようだ。
彼は今回の作品で徹底した”手書き”のアニメにこだわった。グラフィックスを排除し、手で書く矛盾と、画面構成にこだわらない、全くむちゃくちゃな映像を大画面にもたらしている。これこそ、自然に対する回帰、そして自分の持つ、手書きの技術への再挑戦。そんな意思が強く伝わった。
宮崎吾朗の作品に対するアンチテーゼでもあるようだ。『ゲド戦記』の失敗を補おうとする意思も伝わった。
ただし残念なことに、宮崎駿監督に、このような政治的な意思は似合わない。
『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』に見られるターゲットがあまりにも広くなりすぎた。そのパワーはもはや宮崎駿監督には失われてしまったように思える。
『風の谷のナウシカ』から始まった彼の戦いは、この映画で彼の過去の作品を小さく挿入し、集大成としようとしているのだが、残念なことにその意思は消化されなかったように思える。
(2008/07/19)
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