[コメント] ハプニング(2008/米)
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オープニング、建設現場で落下する人影を仰角で捉えたショットは極めて表現主義的でおおっと唸らされたが、この映画はむしろモーション=運動ではなく、ピクチャー=静止画の連鎖で綴られているようだ。フレーム内の人物配置など、往年のスタジオシステムによるアメリカ映画の再現といった感じで、最近の例でいえば『スパイダーマン』や『デス・プルーフ』を連想させる。
シーンの全体像がファーストカットを一見するだけで把握できる、コミックの駒割りのようなフレームの中で、登場人物の顔の造作も劇画チックだ。大言壮語のシノプシスを台詞で説明してしまう一方、言っていることにいちいち細かな矛盾を孕んでいるのも妙な感じだし、背景人物の没個性と無名性、だけれども存在感だけはあるヴィジュアルというのも白昼夢のようで興味深い。
終盤、ロードムービーからサバイバルの様相が出てくるが、ここに人間の英知は見出せない。逆説的に人間の矮小さが浮かび上がってくるかというとさほどでもない。見る者の感情を煽るような演出もないわけではないが、あっけらかんとした脱力さ加減には拍子抜けしてしまう。
こうした方向性は、尖ったインディーズホラーや、狙ったB級ジャンル映画とは正反対のものだと思う。懐妊を告げるズーイー・デシャネルの幸福な振る舞いによって相対的に露わになる、不吉な気配を無視することができないのは、それが映画の枠を越えるか越えないかの脆弱なライン上にあるからなのかもしれない。
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