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[コメント] イントゥ・ザ・ワイルド(2007/米)

アントニオ猪木の「馬鹿になれ!」の意味の重さ。
きわ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この主人公(クリス/アレックス)「将来を約束された若者」だ。頭は良い。大学はオールAでハーバードの法学部へも軽くいける。そして年寄りやヒッピーや外人などとも平等に人間関係を結べるし、ファーストフード店や農場でも職場の人間と上手くやっていける。つまり人間力も高い。 しかし荒野の打ち捨てられた汚いバスの中の、食中毒と餓えが彼の最期。

彼の不幸は悟ってしまったことだ。少年時代で「大人」というものを。大学時代で「社会」というものを。賢すぎる頭と冷静さで悟ってしまったのだ。もう人間には興味がなくなってしまったのだ。

でもそれは結局は若者の早合点である。大人にならなければ大人を知ったということにはならないし、大学は社会ではない。社会を教えているようで、そんなこと微塵も教えていないのだ。たしかに子供の目線からは何もかもが見えてしまう瞬間がある。恐らく賢い者は、それで全てを見通してしまうのだろう。そしてさらに不幸な者は、心だけ子供のまま純粋に外側だけ大人になってしまって、いよいよ汚い社会との折り合いをつけられず、最後は自分を壊してしまう。 愚かな者は、子供の時に見たものを忘れる。愚かになれば、汚れるかもしれないけれど、強くなる。大きく、やさしくなれるチャンスがある。 賢く清らかなものは弱く、美しく、脆い。

汚れたくない。幼いころの自分を忘れたくない。悟ったことはきっと正しい。 そうやって自分を汚したくなくても、生きている限り、社会で生きる限り、その場にいる自分もやはり不潔なのだ。でもそれを受け入れて生きる価値はある。穢れないまま生きようとしたこの若者を見れば、やはりそう思う。私はこうなりたくない。汚れて強く大きくなりたい。

ラストに原作者のセルフポートレートが出てくる。不思議なバスで過ごした日に撮られた写真。その顔は、不治の病の受け入れた人間のそれのようだ。不安や欲や焦りなどが洗い流された清々しさあるけれど、同時に未来の光がない。単なる山暮らしをしている仙人のようなそれでもない。年齢不詳、若くして人生を完了してしまった顔だった。

余談:『トワイライト』でファンになったクリステン・スチュワート。おそらく彼女の出演作で一番乙女な役柄ではなかろうか。ちょい出だが色気がやばい。(妹(ジェナ・マローン)とちょっと見た目かぶってるのが気になるけど)彼女のファンは必見ですぞ。 彼女のシーンで思ったこと。人の初体験というのは、結局「この人と結ばれたい」と思った瞬間が、経験したことになるんではないだろうか。彼女は結局アレックスと結ばれなかったけれど、覚悟を決めて親の留守中に部屋に彼を引き入れた時、その気持ち、その状況で同じ価値があると思える。実際フィジカルに結ばれなくても、その覚悟を決めたとき、その人に捧げようという気持ちが生まれたことが、本当の意味で「初体験」と言えるんじゃないだろうか。(10/5/19 DVD)

(評価:★3)

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