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[コメント] 神の道化師、フランチェスコ(1950/伊)

これは奇跡の映画であり、映画の奇跡だ。実は予想外だったのだが、ほゞフランチェスコの奇跡(聖痕など)が描かれているわけでもないのにそう思う(小鳥が集まってくるレベルの描写はあるが)。
ゑぎ

 また、もっと表面的な部分で、やはり回転運動の映画ということは書いておきたくなる。それは、多くの方が指摘したくなるだろう、ラストのクルクル回って目を回す修道士たちのシーンだけではなく、町を包囲しているニコライオの軍団の場面における、修道士ジネプロの回転運動が、私には決定的だと思われる。自身でのでんぐり返り、兵士たちに転がされ回されて、あげく縄跳びの縄にされてしまうこの一連の回転を連打するモブシーンはぶっ飛んでいる。

 ついでに云うと、ニコライオ−アルド・ファブリッツィがずっと鎧の中に入ったまゝという状況なのも、抜群に面白く、鎧を脱いだニコライオに対峙するジネプロが、笑顔を消さない不敵な顔演技を付けられているというのも凄い感覚だと思う。

 さて、本作は10ぐらいの短い挿話で構成されている。上に書いた回転運動が目立つ2つのエピソード、特にニコライオ軍を舞台とするものは別格とも思えるが、他にも奇跡のような美しい挿話がいくつかある。こゝではあと2つ挙げておこう。一つは、フランチェスコが夜、旅をする(?)ハンセン病患者と遭遇するクダリだ。本作のフランチェスコは、手で顔を押さえながら泣く場面の多い、泣き虫のフランチェスコだと云えるが、このエピソードはその代表的な場面だろう。彼が無言でハグした後、倒れ込むと、小さな花がいっぱい咲いている、という画面の筆舌に尽くしがたい美しさ。

 もう一つの特筆すべきエピソードは、終盤近く、綿のような雪が舞う中、フランチェスコが修道士レオーネと共に、二階建ての家へ布教活動へ赴く場面だ。私が記述したいのは、家の主人から罵声をあびせられ、暴力を受けても、神の愛に歓びを感じる、という宗教者としての姿勢に感銘を受けた、ということではない(いやそれもあるけれど)。何よりもこの雪降る荒地の造型に亢奮を覚えたということだ。

 これらの例示にとどまらず、お祈りの言葉が流れるクレジットバックとかなり激しい降雨の中、道の奥から12人の僧侶たちが皆裸足で歩いてくる待ちポジのショットから始まって。ラストの目を回す修道士たちの場面まで、驚くべき画面に溢れている作品だ。どのエピソード、というかたちの指摘ではなく、多くの場面で画面の中を走り回る13人(途中でジョバンニという老農夫が帰依するので1人増える)の修道士たちの運動がメチャクチャ楽しく愛らしいと思う。それは、ときに、ミュージカルの振り付けのような唐突な初動と、歌唱まで見せる。本作も、多くのロッセリーニ作品と同様、ネオレアリズモという括りの中には収まらない、世界映画史上の傑作だと思う。

(評価:★5)

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