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[コメント] 罪の天使たち(1943/仏)

ブレッソンの長編デビュー作。実に13本しか長編監督作を残していないのだけれど、私が見た作品は全て、掛け値なしの傑作だ。本作と次作『ブローニュの森の貴婦人たち』は一般的な娯楽映画としても、王道を行く演出を披露している。
ゑぎ

 いやあこのまゝルノワールやベッケルみたいな大衆的にも評価される(一般受けする)名匠になっていたかも知れない、と思わせるものだ。

 例えば、冒頭近く、修道会の院長−シルヴィーと2人のシスターが、礼拝所でクルっと回転する動作に合わせてアクション繋ぎをする演出。彼女らが自動車で向かった刑務所の前の、霧と街灯による画面の造型。新入りの修道女アンヌ・マリー−ルネ・フォールと院長とのバッチリ決まったバストショットでの切り返し。祈るアンヌからのトラックバック。他にも修道女たちをドリー前進移動や横移動で撮ったショットが多数ある。あるいは、オフ(画面外)の音使い、修道女たちのコーラス、鐘の音、雷鳴といった音の演出も王道的な表現だろう。

 また、主人公を演じるルネ・フォールがとても綺麗な女優で(繊細にしたデボラ・カーといった感じ)、院長のシルヴィー(後年の『嘆きのテレーズ』では姑を演じる人!)の鷹揚さの表現も見事だし、もう一人のヒロインと云ってもいい元受刑者のテレーズ−ジャニー・オルトといった女優も含めて、やっぱり職業俳優を使った安定感のある画面はいい。

 そんな中で、後年にも見られるブレッソンの特質が、既に顕れていないかと探しながら見ていたのだが、次の2点は書いておきたい。いずれも終盤、まずは、夜の墓地で倒れた瀕死のアンヌ・マリーを残し、テレーズが院長を呼びに行く後ろ姿のショット。画面奥に歩いて行くテレーズが、木立の中に消えてしまったように私には見えたのだが、これって『抵抗』や『たぶん悪魔が』のラストショットを想起させた(実は、この例はかなり穿った見方かも知れない)。もう一つは、これは多くの人が感じるだろう、ブレッソンらしい手の画面だ。これも最終盤、しかもほゞ2連打で提示される。聖書に載せる手のショットと、さらに、両手を交差して差し出すラストカット。このラストカットは、画面外の人物を映さない演出であり、それは、中盤にある銃撃シーンで、撃たれる人物を画面外に隠蔽する演出も想い起こさせる。いやあなんて見事なラストカットだろう。

(評価:★4)

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