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[コメント] ウディ・アレンのバナナ(1971/米)

既にここでアレン監督のフォーマットは出来上がっていたようです。この人だからこそ笑える作品。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 これまで主に俳優および脚本家として知られてきたアレンの監督としての腕を見せつけた作品。一応パントマイム的どたばたコメディなのだが、政治の裏側の馬鹿馬鹿しさを徹底したシニカルさで味付けした結果、単なる笑いにとどまらない好作に仕上げられていた。さすがアレンが作るとひと味もふた味も違う。

 アレン監督のコメディは独特のものがあり、完全に差別を主体としているのが多い。それはアレン監督自身がユダヤ人と言うこともあって民族的な差別であったり、あるいは宗教的、あるいは精神的な弱さを持つものに対する差別であったりする。しかしそれらかなりきついギャグがさほど違和感感じさせずにするっと入ってくるのは、やはり本人自身が自分を徹底的にこき下ろして描くからなんだろう。

 ここで登場する監督の分身とも言える(あるいは本人?)ウディは、革命のヒーローだし、実際大統領にまでのし上がる。しかし、それで本人の性格や思いが変わる訳じゃなく、常におどおどして、自分がここにいて良いのか?と迷い続ける。自分の居場所を最後まで見つけられない、雰囲気を読めないキャラとして存在し続ける。結局アレン自身が主演したほとんどの作品の人物描写のフォーマットはここで既に確立していたのだ。

 そのおどおどぶりと、思いもかけぬ行動性のギャップこそがアレンの魅力となるし、観てる側としては笑いつつも、なんか居心地の悪さを感じさせられる。それは多分誰しも、人の間にあって居心地の悪さというものを体験しているから、自分自身を思い出させるからだろう(特に私なんかはそうなんだと思う)。

 それを狙って出来るのがアレン監督の凄い所なんだろう。

 これがチャップリンあたりだったら、同じような姿勢で作るために、似たような感じになるんだろうが、笑いの質としてはずいぶん違ったものが出来ると思う。そう言う意味ではコメディに重要なのは作家性なのかもしれないと思わせられる。本作もこれまでのコメディの作り方だったらB級ナンセンスコメディで終わっていただろうけど、それをこんなにシニカルな感じに仕上げることが出来た。

 低予算には違いないにせよ、撮影も色々頑張ってたしね。モンタージュなしの乳母車落ちとか。

 アレンが監督作として本作を選んだのはたまたまではなく、前年に『M★A★S★H』(1970)がヒットし、受け手側の質が変わってきたこと、コメディの多様性をいち早く感じ取ったからだろう。時代の波に敏感なのもアレン監督の特徴。

 ところで本作冒頭にウディを殴る小太りの不良が登場した時は思わず大笑いしてしまった。後で確認してこれが本当にスタローンだってことを確認してもう一度笑った。

(評価:★3)

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