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[コメント] 心(1973/日)

幸せのためなら何でも許されるという反倫理の毒が回っている。フィルムは退色激しい。乞復旧(含原作のネタバレ)。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「こころ」の下「先生の遺書」だけをピックアップしている。冒頭、先生の「私」にあてた手紙の冒頭が朗読されるが、電車に乗っている(この手紙を読んでいるはずだ)のは先生の松橋登だ。映画は複雑な語りをしている。そして本作の先生は死なない。 当時の邦画は裏切りの主題がとても多かった。資本主義の膨張に付随するものなんだろう。本作もその一環に見える。裏切り者の先生は反省して自殺などせず生き延びる。

母娘は先生の共犯者ではないのか、娘の結婚のために策略を進めていたのではないか、という含みは原作に満ちている。これが明快にならず、あるいは先生の思い過ごしではないかと思わせるのが小説の肝で、淫靡な女権社会の主題を形作っている。映画はこの点明快で、母娘は共犯の意図を定着させている。全ては稟議と根回しの世界。辻萬長自殺の折に乙羽信子は全てを知っているように振る舞い、まるで彼女が殺したかのようだ。全てを墓場へ持って行き、最期に「お幸せに」といい残す。幸せのためなら何でも許されるという反倫理を読み取るべきなんだろう。

K(映画ではS)はそんな簡単に自殺するだろうか、という不足感はある。しかしこれは原作も同じだ。原作では彼は明治人の実直な元僧侶で、、明治追悼が乃木の殉死とともに倍音響かせ提出される。これは映画ではどうするのだろうと思ったがざっくり略された。派手なお嬢さんの杏梨も時代風刺として効いている。奇怪な作風は『絞殺』まであと半歩。トランペットの劇伴がジャジーでいい。

(評価:★4)

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