主人公であるロルナは外国人である。ベルギー国籍は所得しているものの、それは違法か、少なくとも正当とはいえない方法によるものだ。

彼女の人生はブローカーのファビオに委ねられている。彼がこうしろと言えば彼女はそうせざるを得ない。見かけ上自由なベルギー人ではあっても、ロルナの立場は弱く、自分自身に関わることすら自分では決められない。

しかし、戸籍上の夫であるクローディに対しては彼女も権勢を振るっていられる。それはクローディが麻薬中毒者で、ロルナの支えがなければ生きていけないという、相対的に弱い立場にあるからだ。

そんなこともあって、彼女は自分自身が「弱い人間」だということに気付いていなかったのだろう。恋人であるソコルとの将来にも展望が見えていて、日々の生活がそれなりに充実していたからということもあるかも知れない。

だが、ファビオは非情にも彼女の人生を規定し続ける。クローディを消し、後釜にロシア人を据えるという計画を彼から迫られたロルナは、おそらくはそこでようやく、結局のところ自分もクローディと同じなのだと気付いたのだろう。だからこそ彼女はクローディを受け入れたのだと思う。

しかし、そのクローディをファビオによって失ってしまった彼女には、もはや逃げ出すか、さもなくば一生沈黙し続けるかの道しか残されていない。そうしてみると、最後に『ロゼッタ』みたいな「逃げる女」の話になったのは必然ということなんだろう。

ロルナが本当にクローディの子を宿していたのか、それとも彼女の妄想に過ぎないのかはよく分からない。しかし、いずれにしても子どもこそがファビオから逃げるための唯一の手段であったのだろうと考えれば、彼女の行動は何となくでも理解できるのである。